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「あぁん、や、そこっ」
「…、気持ちいいよ、雪。雪も手を貸して」
「はい」

いったん冬慈さんの手が離れ、僕の手が先に置かれる。僕の手は冬慈さんと比べて一回り以上小さいから、必然的に両手で持つことになってしまった。

その両手を冬慈さんに包みこまれ、再び行為が再開される。

最初は手だけの動きだったのが、もどかしくなって腰を振る様な動きをすれば冬慈さんの裏筋を刺激するのか、お返しのように腰を振り返された。

それでじんと頭が痺れるほど気持ちよくて、僕の視界がゆらゆら揺れ始める。快感で目が潤む感覚が分かってくるような気がした。

「…それに、この体制だとキスがしやすいな」
「んっ、ふぁ、ぁ」

とろんとした目で冬慈さんを見上げれば、茶目っ気交じりにそう言われ、舌をからめとられる。初めての時を思い出しながら夢中で唇を震わせていると、頭がぼーっとしてきた。
多分もう、身体で痺れていない場所はない。

それくらい気持ちよくて、僕は冬慈さんに慈悲を請うた。

「…とうじさ、んっ、もうっ」
「俺も限界だ。…行くぞ」
「あっあっ」

冬慈さんの大きな手でラストスパートをかけられ、僕はなすすべもなく上り詰める。それと少し遅れて、冬慈さんも果てた。

「………ふ、んっ」

最後の最後まで出しきり、くたりと力が抜けてしまう。

冬慈さんは僕のそんな姿に笑いながら、優しく宥めるようなキスをたくさんくれた。

「…今日は風呂を入って、そのまま寝てしまおう。明日は、映画の続きを見ようか」
「―――はい」

何気ない一言だけど、僕はその言葉に泣きそうになりながら頷いた。

この夢のような時間は、現実なのだ。

都合のいい夢ではない、明日もまた、やってくる。

他の人にとっては当たり前のことかもしれないけれど、望んで叶うことの方が少なかった僕には尊い宝物のように感じた。

いつしか諦めてしまっていた、そんな望み。

―――誰かと、穏やかに、ささやかな幸せを感じていたい。

冬慈さんとなら、叶えられる、叶えてくれると思うと、親愛の情が溢れてくる。


―――僕はこの人が、好き。大好き……


力の入らない身体で冬慈さんにすり寄りながら、僕は多分一生で初めて、うれし涙を流した……。


―――そして、そんなささやかな日々も、壊れるのは容易いのだということを、僕は後に知ることになる。






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