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「…あぁ、すいません。迷惑でしたか?」
「いえ……店長は知らないみたいなんですけど、あまりに濡れているようでしたので…。店に用事でしたら、ご案内いたしますけど」

僕がそういうと、彼は少し迷っているようだった。

僕はあれから特にお客様との接触はなく、ユウキさんと店長にこき使われていただけなのだが、そんな『なんちゃって店員』でも一緒にいるのといないのでは大きな差だと思う。

それに、見た感じだとこの人はこういったお店に不慣れである。

待ち合わせなら先に店の中に…と思ったのだが、彼はゆっくり首を振った。

「いや…今日は様子見に来ただけなんだ。まだ、店の中に入るのは遠慮しとくよ」
「そうですか。…あ、少し待っててください」

困ったような笑顔とともにそう言われ、僕は気にしていないと笑顔で答えた。

そうして彼に待ってもらうと、二階に行ってかさとタオルを差し出す。

「今日は夕方から雨がひどいですから…待つにも帰るにも濡れてしまうと思うので、良かったらどうぞ」
「そんな…」
「僕にはもう一つ、折りたたみ傘があるので濡れませんし。無理に返してくださらなくても大丈夫ですので」
「―――ありがとうございます」

僕がそういうと、彼は嬉しそうにうなずいた。『では、失礼します』とあいさつをして中に戻れば、早速ユウキさんの声がかかる。

「ヒナ、酒作って。ちょっときつめのカクテル希望」
「はーい」

ユウキさんはすでに顔が少し赤くなっていて、だいぶ酔っているようだ。普段はお客様のお触りもやんわりと断っているのに、機嫌良さげに受け答えしている。

「炭酸はいれても大丈夫ですか?」
「どっちでもいい」
「了解です」

僕がくすくすと笑えば、ユウキさんは拗ねたようにそっぽを向く。どっちでもいい、なんて言って、本当は炭酸が好きなのを隠しきれてないのが何ともかわいらしい。

「お待たせしました。お客様は何に―――」

しますか、と言おうとしたところで、僕は目を丸くした。お客様が僕の髪の毛に触れて来たからだ。

いきなりの接触に目を丸くしていると、その人は『濡れてる』とだけ言った。

「先ほどまで外にいましたので」

僕が当たり障りのない答えを返せば、『それだけ?』と言われ、僕はお客様を見る。

ずいぶんときつめの印象だが、かなりの美形である。ユウキさんと並ぶと本当に絵本の世界の住人のようだ。

さしずめ黒騎士様といったところだろうか。染めていない漆黒の髪に、薄いシルバーのカラーコンタクトがとてもよく似合っている。




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