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「髪切ってさっぱりしたな。やっぱりそっちの方が似合ってる」
「ありがとうございます。……あの、タツミさん、一つ聞いてもいいですか?」

カチンとグラスを合わせ、優しく頭を撫でてくれるタツミさんに、僕は気になっていたことを告げる。

『―――ハジメテのヤツっていうのは、これから先も特別だろうな。お前にとっての俺がそうであるように、俺にとってのお前もそうだ』

僕を抱く前、タツミさんは確かにそういった。でも、僕が初めてだとしても、タツミさんにとっても特別になる、とはどういう意味だろうか。

そう告げると、タツミさんは困ったように笑った。

「――俺、仕込みだとか、ビジネスで抱いたの、お前が初めてなんだ。だから、お前は特別、甘やかしたくなる」

勝手に罪滅ぼしのつもりなのかもな、なんて言いながら、タツミさんは僕の瞳をのぞきこんでくる。なんだか恥ずかしくなって視線を外せば、タツミさんはさらに続けた。

「仕込みなんてした事なかったし、これからもするつもりはない。だけどさ……オマエと出会うの、もう少し別の方法が良かったなんて、ずるい自分が言うんだ」

その言葉を聞いて、僕は胸がギュッとなるようだった。

きっと、タツミさんも店長と一緒だ。優しすぎて、自分を責めるタイプ。

僕は切なくなりながらも、自分の気持ちを口にした。

「……僕は、初めて抱かれたのが、タツミさんでよかったと思います。タツミさんには、気持ち良くなってもらえなかったかもだけど、き、気持ちよかったし…」

最後は消えるように小さくて、よく聞こえなかったかもしれないけど、真っ赤になった僕を見て大体のことは理解したらしい。

タツミさんは僕の頭を撫でながら、口を開いた。

「―――俺だって、気持ちよかったよ。今日だって、昨日予想以上にサカったからヒナがきつくないか見に来たんだし」
「ふふ…ありがとうございます」
「…ずるいよな。結局俺は、ヒナにそう言ってもらいたかっただけなんだ」
「ずるくないです。本当の気持ちです。タツミさんが納得するまで何度だっていいます」
「ムキにならなくていい。痛いほど伝わってるから」

タツミさんは僕の手をとると、ホラ、という風に胸に手を持っていく。タツミさんの温もりを服越しに感じて、僕はさらに体温が上がるようだった。

「だったらさ、ヒナ…今晩ヒマか?」
「え?」

これはもしかしなくても、アフターの誘い、という奴だろうか。嬉しいのと困惑が混同して、変な顔になってしまう。

「ごめんなさい…今日は先約があって」
「そっか」
「でも、すごく嬉しかったです」

僕はタツミさんの手を逆に取り返すと、両手でギュッと握った。嬉しさが伝わるといいな、と思いながら。

「今度…僕からも誘わせてください。タツミさんと、もっと話したいです」

恥ずかしくて顔が熱い。タツミさんを見れば、照れたように頬をかいていた。

「お前には本当に負けるよ。……土曜日にまた来る。ちゃんと誘えよ」
「はい」

僕は嬉しくて、おおきくうなずいた。それから、閉店時間までタツミさんといろんなことを話したのだった……。





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