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―――真っ白な世界を走る夢を見た。


踏みしめた雪はザクザクと軽快な音を立てて、僕に幸せな気分をくれる。

溶けた雪を吸って冷たく重たくなる靴とは裏腹に、僕の足はどんどん軽くなっていくようだった。

吐く息が白くなるほど冷えた空気も、赤くなった耳を刺す痛みも。まるで透き通るような澄み切った空気の証だった。

真っ赤になった手を擦りながら家に向かう。

今日は、父さんが出稼ぎから帰ってくる日だ。

きっと寒いだろうから、あったかいご飯を作らなくては。やっぱりシチューがいいかな。


そう考えながら家を開ければ、


―――人の住んでいる気配のない、殺風景な景色が広がっているだけだった。




―――そこまで見たところで、僕は目を覚ました。

見上げれば少し古ぼけた天井が広がっていて、僕は深く息を吐く。

ここは店長が貸してくれているゲイバーの二階の空き部屋で、タツミさんに美容室に連れて行ってもらった後、引っ越してきたのだ。

勤務時間まで少し時間があるから、と三時間だけ寝ようと思ったのに、嫌な汗が背中を伝って気持ち悪い。

ふぅ、ふぅ、と荒い息を吐きながら外を見れば、すでに夕闇に染まりかけていた。

あまりいい夢ではなかったが、かといって仕事を休むわけにもいかず、僕はそのまま下のゲイバーに向かったのだった。

「ヒナ、もういいのかい?」
「はい、眠れましたから」

下にはすでに店長が来ていて、僕は苦笑をしながらカウンターに向かった。

「店長―、おはよっす」

何気なく店長のそばに行こうとすれば、早番の先輩とばっちり目があってしまい、僕は硬直する。

先輩もそうだったようで、綺麗な金髪に縁取られた顔を驚きの色で染めていた。


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