7
―――嵐のような行為が終わった後、僕はタツミさんと枕を並べていた。
何となく恥ずかしくて腕枕は辞退したのだが、腕の中でタツミさんの心音を聞いているだけで、顔が熱くなるようだった。
「―――ヒナは、本名か?」
「え?」
「ヒナとは本当の名前なのか?」
「いえ……」
店長に、こんな店だから本名は隠すように言われている。このヒナという名前も、店長に入店する際に決めてもらったものだった。
「僕は…朝比奈……朝比奈雪(あさひなせつ)です」
だけど、タツミさんには知っていてほしいと思った。僕が、朝比奈雪を止めて、ヒナとして働いていくために。
タツミさんは優しくほほ笑んで、僕の髪を撫でながら口を開いた。
「朝に雪か……真っ白で、綺麗で、よく似合っている名前だな」
「ふふ……お世辞でもうれしいです」
「本当だ」
「タツミさんは…どんな字を書くんですか?」
僕が逆にそう問いかければ、タツミさんは髪をすいていた手を止め、僕の手を取って指で漢字を書き始める。
―――『辰巳冬慈』
「たつみ…とうじさん?」
「あぁ。ヒナには、二人でいるときは下の名前で呼んでほしいな」
「はい……」
冬慈さん、と口にすれば、恥ずかしくなって僕はシーツの中に逃げた。向こうから冬慈さんの笑う声が聞こえたが、僕は黙ってカタツムリになっている。
すると冬慈さんはシーツごと僕を抱きしめてくれて、その体温にまた泣きたくなった。
抱きしめられるのなんて、十年以上経験していないのだから。久しぶりすぎて忘れていた感覚は、こんなに優しくて。
「お休み、雪」
優しい囁きに、僕は少しだけ顔を出して『おやすみなさい』という。そうしてもぞもぞとまた隠れてしまった僕に、冬慈さんは笑った。
「冬に雪か……俺たちは意外といい組み合わせかもしれないな」
そんなつぶやきを聞きながら、僕は眠りの海へ落ちていったのだった……
[ 11/90 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
top