無自覚トラップ
「さーかいさーん!」
バタバタと足音が背後から聞こえてきた。
自分を呼ぶのは耳馴れた声だが、その声量にはまだ耐性はつかない。
「んだよ、うるせえな。」
振り返ると、満面の笑顔で世良が突進するように走ってくるところだった。
「堺さーんっ!」
世良がそのまま自分に抱きつこうとするのを感じ、さっと避ける。世良は慌ててブレーキをかけ、前のめりに足を止めた。
「何だよ。」
「今日っ……今日、ですね。」
「あ?」
「俺、初めて、サイン下さいって言われちゃいました!!」
「………へえ。そうか。」
「言われたんスよ!!」
「は?だから何なんだよ。」
俺は冷めた声で、世良の求めているであろう台詞を口にしてみる。
「………そうかよかったなこれからもがんばれよ。」
「何で片言なんスか!てか、凄くないっスか!?初めてですよ、初めて!」
世良は落ち込みはしない。これも予想通りだ。
「あー………面倒臭えな。」
「だって俺、すっげ嬉しくて!」
「そうか。」
やれやれ、と俺は世良の頭にぽんと手を乗せた。
「良かったな。」
「…………!」
世良は口を半開きにさせたまま、ぴたりと動きを止めた。面白え。
「…………。」
試しにそのままにしてみると、世良も動かない。
いつまでこのままでいるのだろうと、無表情に眺めていると、ゆっくりと世良は視線だけ向けてきた。
「………あの、堺さん?」
「あ?」
恐る恐る、といった感じで世良は、
「あの、手……」
「手?」
何のことだという感じで、俺は言う。我ながら白々しい。世良は何をどう言おうか、迷っているようだった。だんだんと頬が赤くなっていくのが、面白い。
「手、を、ですね………」
口ごもる世良。語尾が小さくなっていく。さっきまでの勢いが嘘のようだ。
「んだよ。」
「………っ、の、」
「あ?」
「堺さんの、意地悪………。」
世良は少し泣きそうな目で、眉尻を下げて見上げてきた。
「…………。」
「ちょ」
「…………。」
「何か、言ってくださいよ……。」
消えそうな、小さな声で世良は俺に言う。何か言って下さい、だって?
「堺さん………?」
世良にとっては何でも良いのだろうが、俺は特に返事など考えていない。
「堺さんってば。」
「…………。」
「……えと、聞こえてます?」
「聞こえてるよ。」
無愛想な声で答える。でも、手はそのまま。さっさと離してしまえば良いのに、なんだか離したくない。ふわふわする髪の毛と、それを通して伝わる世良の体温。それが心地よかった。
………あ、そうか。唐突に、自分がどうしてこんな行動をしているのか気付いた。
「ど、どうしたんスか?」
世良が照れたように言う。俺の行動の意図が分からないのだろう。俺自身も今気付いたばかりだ。
「………世良。」
「は、はいっ!」
名前を呼ぶと、世良は背筋を伸ばした。
「もう少し、そのままでいろよ。」
「へっ!?………あ、はいっ!」
世良は目を丸くしたが、大人しく、その場に硬直する。
「世良。」
「はい。」
「良かったな。」
「え?」
「サインだよ。」
「え、ああ、はい。」
「でもな。」
俺の眉間の皺が深くなるのを見て、世良がぎくりとした。
「は、はい。」
「お前が頑張ってんのは、俺が一番知ってんだからな。」
俺の言葉に、世良は呆けたように目を見開いて俺を見上げた後、笑顔でうなずいた。
「………はい!!」
俺が感じていたのは、顔も名前も何も知らない、世良にサインをねだった誰かへの、嫉妬。
「紅粋」の瀬戸内ゆいさん宅の2000Hit記念に「サクセラ」をリクしてきました!
あー世良くんかわいすぎる。あと堺さんも可愛いです←
特にもじもじする世良くんとなんだかんだ世良くんが好きな堺さんがたまらんとです。
初な奴らめ!!
ゆいさんのサクセラは私のツボを突きまくりで大好きすぎて息切れが…
ゆいさん、ありがとうございました\(^O^)/