謙也はゲームの電源を入れた

…ブン

「どですか?ナンパ上手くできはりました?」

「昨日の事が気になりすぎてそれどころやあらへんわ!消えるってどない事や!?」

謙也はゲーム機を握る手に力が入った
たった一週間の話だ
ついこの間たまたま買ったゲーム
そこから出てきたのはナンパを教えてくれる女の子
でもその子はナンパ意外にも色々な事を教えてくれた

「あぁ…そんな事でナンパさぼりなはったんですか?」

少女は呆れた様に肩を竦めてため息を吐いた

「別にアンタには何も起こりまへんから安心しはって下さい。最終日が過ぎるとゲームのメモリーがリセットされてうちの記録がなくなるだけですっわ」

予想はしていた
しかし改めて少女の口から言われた言葉に謙也は目を見開いた

「んで…声かけのポイントですけど」

そんな謙也を置いて少女は最後の講義を始めた

「その場で立ち止まらずに動き回ることですわ。立ち尽くしてるとナンパしてんのバレバレになってまいますねん」

しかし謙也の耳からは彼女の声がスルスルと通り抜けて行くような気がした

「あとは一方的に喋ることっすわ。自己紹介やら着てる服やら何でもええですからキーワードを出してそれに相手が食いついたらそこを押すんですわ」

けれど少女の表情も言動もいつもとかわらなかった

「あとは誉めまくるっちゅうのもええっすわ。ただその時は顔よりセンスを誉めてな。顔だと嘘っぽくなりますから拘ってそうなとこをみつけて誉めたって下さい」

そこで少女は言葉を止めて俯き加減の謙也に指揮棒を突きつけた

「一番大事なんはそうやって暗い感じを出さないことっすわ」

謙也は顔を上げて少女を見やった
少女は肩を竦めて続ける

「面白いトークなんちゅーのはすぐ身に付きませんけど楽しげな雰囲気なんかはオーバーリアクションや笑顔で結構簡単に出来るもんですわ」

少女は髪を撫で払った
勝ち気がちな瞳が謙也を見つめる
涙やら鼻水やらを堪えてぐしゃぐしゃな顔をした謙也に少女は苦笑した

「ほら笑って下さい…うち時間ですからそろそろ行かんとあきまへんのや」

「……………なぁ」

謙也はYシャツの袖で顔を拭った
それから改めて少女を見やる

「君、可愛ええな。ちょっと遊ぼ!」

謙也は満面の笑みを見せたが目尻にはまた涙が溜まっていた
少女は目を見開いてそれからそっと微笑んだ

「ありがとう」

いつもとは違い音を立てず透ける様に消えていった少女の瞳もまた涙で塗れていた様に思えた


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