「買ってしもうた…」

忍足謙也は右手にあるパッケージを覗いた
描かれた可愛らしい女の子と踊る文字

「リアルナンパシュミレーションゲームなんて聞いたことあらへんわ…」

言いながら忍足は買ったばかりのパッケージを開いた
全ての原因は昨夜いとこと電話していた事にある
普段からその東京にいるいとことはよく電話などで連絡を取り合うのだが昨夜のその内容というのがひたすらにいとこの惚気話だったのだ
いとこには容姿端麗文武両道そして金持ちという女王の様な恋人がいる
もちろん彼が彼女のその様な部分でなく内面に惚れた事などわかっている
わかっているがわかっている程に正直羨ましかった
いとこだけではない
最近は幼なじみも転入生といい感じであるし、部活仲間も彼女がいたりする人が多い
そんな感じでちょっと人恋しくなっている時にたまたま見かけたのがこのゲームソフトであった

「ゲームで彼女ができるってほんまかいな…!」

忍足はポータブル型ゲーム機にパッケージから取り出したROMを入れてスイッチを入れた


…ブン!!


「な…なんやこれ!」

すると途端にゲームディスプレイからパッケージに描かれていた少女のホログラムが浮かび上がった「な…なんやねんこれ…!」

少女がゆっくりと瞼を開けば濡黒の瞳が覗いた


「ゲームから飛び出して、話しかけているなんて不思議なんはようわかりますわ。けどうちには時間あらへんやからナンパ講座始めさせてもらいますわ。」

少女は一気にまくし立てるとビシッと謙也を指揮棒で差した。

「え、スマン。これどゆことやねん!?」

すると少女はあらかさまにため息を吐いた

「あんな、女の子と仲良くなりたいんやろ?やからうちがナンパの仕方を教えたる!あんたはそれをリアルで実行る!以上や!」

少女は言うと謙也の背後に視線を滑らせた眉間に皺を寄せた

「そないな事急に言われても…」

「ほら!この瞬間に出会い一個失ってるで!」

少女が指した方を見やれば謙也と同年代の少女が髪を茶色い靡かせながら去っていくところであった
本から釣り目がちな少女が不機嫌そうに睨むのは小さくも充分な迫力がある
それを知ってか知らずしてか少々ビビった謙也に対し少女が少しだけ迫を弱めた

「あんた彼女欲しいんやろ?せやったら何にも始まらないで。まさか逆ナンされるとでも思ってはります?」

腰に手を当てて言う言葉は少しキツいがその通りでこのゲームを手にしたのだ
じっと少女をみつめていると一瞬だけ少女が微笑んだ気がした
「まぁ覚悟決まったんなら明日のこの時間にまた電源入れたって下さい。じゃあ」

「あっちょい待ちって!」

それだけ言うと少女は再びブンと音を立てて消えていった
謙也は真っ暗になった画面を見ながら少女を思い返していた

「ナンパをしないと何も始まらない…か」

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