定評のある巨匠の映画は類に違わず素敵なお話だった
恋なのか友情なのかも曖昧な男の子と女の子の物語り
可愛らしい世界観や魅力的な表情なんかに引き込まれた
優しくちょっぴり切ない物語なのだがしかしアクションなどはなく男の子はこれを楽しめるのだろうか
ふと、そう思ったのはもう終盤で少女と少年の別れという
言うなればクライマックスの天辺へたどり着いてからだった
もしかしなくても気を使わせてしまったのだろうか
チラリと隣を伺いみてギョッとした

「ちょっ!!」

隣に座っていた彼は瞳に大粒の涙を浮かべては流し浮かべては流し
ボロボロと号泣していた
手にしているハンドタオルは彼の巨躯には不釣り合いに小さく見えて
それは飽和量を超える涙を有していた
慌ててそれを手のひらから引き抜きホロリと来たときにと握っていたハンカチを渡す
ハンドタオルよりも小さく折り畳まれたそれは彼の手にすっぽりと収まるほどだったが
彼はこちらをみて小さく礼を言うとそれを広げて涙を拭き、再び視線をスクリーンに戻した
こちらの手元に残ったハンドタオルは絞れそうで赤いのケミカルレースに縁取られたそれにはこの巨匠の描いた黒猫がキョロリと黄色い瞳を見開いてこちらをみていた
彼は確かに自分に気を使ってくれたやもしれないがそれ以上にこの監督の映画が好きなのだと思った






「よか話やったとね」

シネマから出ると小さくひと息をついた
千歳の手には先ほどのハンドタオル程ではないがかなり湿った白石のハンカチが握られている
千歳はスルリと白石の手からハンドタオルを抜き取るとそれに白石のハンカチを包んだ

「これありがとね、洗って帰すとよ」

「えっええよそんなっ」

慌てて返して貰おうにも千歳は手早くそれを鞄にしまってしまった

「ちょっとお手洗い行きたいけん、白石さんは?」

「うちは、大丈夫」

「やったらそこでお昼の場所でも考えといて」

千歳が指さしたのはショッピングモールのフロアガイドのパネルだった

「うん」