千歳は前のめりになった体制から慌てて踏みとどまった

「謙也…なにすっどとね」

「なにすっどやあらへんわ」

謙也は千歳を思い切り叩いた

「お前さっきの話聞いとったか?」

「聞いてたとよ」

「………もしかせんでもお前アホなんちゃうか?」

謙也が真面目に眉間な皺を寄せたところで白石の隣にいた女子が前へ出てきた

「こいつが千歳か」

ハスキーな声の主は可憐なタイプの白石とは違いかっこいいと形容出来る美人が顔全体で千歳への嫌悪と怒りを表すかの様にギロリと睨みつける様は些か迫力がある

「くらに気安く触らんといてくれはる?」

そのまま白石を後ろに庇いたてる様に千歳の前へきた

「ほぉ女テニは別嬪さんばかりとね」

千歳は白石、目の前の少女そしてもう1人の黒髪の少女へと視線を滑らせた
少女は訝しむ様に眉をひそめてから顔を逸らした
千歳は相も変わらず笑顔で白石に向き直る

「で、どうね白石さん」

再び白石へと伸ばした手はたどり着く前に間に憚る少女の手に弾かれた

「くらに触んなや」

またギロリと睨まれる

「はは、白石の恋人みたいけんね」

「ふざけんな」

どうやらこのこにはとことん嫌われてしまったみたいだ

「別嬪さんやけん口悪かね」

「誰のせいやとっ」

「千歳はん」

千歳の言葉に少女が喰い掛かったところで思わぬところから制止がかかった

「あんまり儂の手えださんといてくだはりますか?」

いつの間にか歩み寄った石田が少女の肩を引き寄せた

「師範の彼女やったとね」

もしや、と思い黒髪の少女をみやると間に謙也が滑り込んできた

「………謙也」

「なんや」

「どうやってそんな美少女誑し込んだと?」

「誑し込んでへんわ!」

キャンキャン喚く謙也の声を右から左へ受け流しながら千歳は白石をみやる
白石は俯きながら拳を強く握った

「ええよ!」

その声に皆が一斉に白石をみる

「但し、他の子に手出しせえへんって約束して」

千歳はにいっと唇を上げた

「白石さんが俺と付き合ってくれちょる間は他の子に手出ししない、って事でよかと?」

白石は何も言わずごくりと頷いた