「おばちゃん、ソーキそば3つとタコライス2つ!」



空港を出ると平古場の提案で地元近くの定食屋に向かった
中学から馴染みのある店だが入るのは久しぶりで懐かしい
そこには自分達の中学の時の写真が飾られていて立ち並ぶ幼い顔立ちがなんだか眩しく感じられた

「にしても、裕次郎は変わらねーな」

「やーもな」

ニカッと笑う平古場に甲斐は苦笑した
平古場は高校生時代に長かった髪を一度バッサリと切ったが今はまた少し伸ばし始めているのか薄めの襟足が肩甲骨辺りまできていた
しかし口調や態度なんかはあんまり変わっていなかった
沖縄を離れて長くなるのにも関わらず未だに黒々とした肌はあちらでも年中海に出ているらしい
しかしやはりこちらとはかなり違うとは言っていたが
平古場は甲斐から視線を離すとその隣にいた知念に顔を向けた
その瞬間、おそらく2人には気付かれない程度にだが知念の肩がはねたのは一体どういう感情からなのか彼女自身わからなかった

「知念は、ちゅらかーぎーんかいなっのみぐさぁ〜」

トクン、などと胸が鳴ったのはいつ以来だろう
彼の口から地元の言葉が出たから、そう思いたかった
美人になった、なんて何故いまさらそんな事を言うのだろうか
知念はキュ、と机の下で手のひらを握りしめた
どう返そうか迷い口を小さく開いた途端、見計らったかのように来た料理

「まぁさぎさん!くわっちーさびら」

「くわっちーさびら」

「さびらー」

少しだけホッとした知念は懐かしい味を啜る
沖縄の味が懐かしいのかソバにタコライスという組み合わせの平古場をチラリとみやる
するとバチリ、と視線が噛み合ってしまった
慌てて反らしたいのだが何故だかできなくて
平古は手にしていたスプーンをカチャリと置いた

「くまぬもまーさんしがやーのがひーばんまーさん」

ひどい人だと思った
そんな事を言われて、自分はどうすればいいのだろう
タコライスは知念がよく小腹がすいたとゴネる平古場に作ったものだった
その味を覚えてくれていたのが嬉しくて
だけど軽々と言ってのけた彼がすごく遠く感じた

私は今も彼が好きなのだ
そして彼にとって私は取るに足らない過去なのだ
そう気付いたら急に哀しさに気付いてそう、とだけ返事をして再び箸を動かし始めた





ちゅらかーぎーんかいなっのみぐさぁ〜→美人になった
まぁさぎさん!くわっちーさびら→おいしそう!いただきます
くまぬもまーさんしがやーのがひーばんまーさん→ここのもおいしいけどお前のがいちばんおいしい


翻訳→もんじろう