朝、忍足先輩はうちの前にいた

「はよっ」

「おはようございます」

忍足先輩は愛車の真っ赤な自転車を横に押しながらうちの横を歩く
星のエンブレムの入ったマウンテンバイクのそれは忍足先輩のお気に入りで凄くお似合いだった
何度かみかけたその自転車を走らす忍足先輩の後ろ姿に何度視線を奪われた事か
(こんなんやから白石先輩にすぐバレてしもうたんや)
まぁそれが幸をそうして今現在に至るのだが
うちはチラリと楽しげに話す忍足先輩の顔を盗み見た
こんな近くでうちだけの忍足先輩の笑顔
幸せすぎる……!!






「おぉ白石!!」

そんな幸せな登校から半日近くたった放課後
いつもの様に白石先輩と部室を出たら同じ様なタイミングで男テニの部室も開いた
顔を出したのは部長の忍足先輩と副部長の金色せんぱ……じゃなくて、春先に転入してきた千歳先輩やった

「おぉ謙也!なして千歳がおるん?」

白石先輩も気になったらしい
のんびりと忍足先輩の半歩ほど後ろに立っている千歳先輩を指差しながら問いかける

「小春は花月近いからそっち行っとるんや。そっちの一氏もやろ?」

「えっあぁ…」

「んで、部活の事をもっとよく知ってもらうためも含めて千歳が代理って訳や」

言われて千歳先輩が軽く会釈をした
白石先輩は何故だか腑に落ちない顔で忍足先輩を見ている

「そっちも今から帰りやろ?鍵返し行ったら一緒に帰ろうや」

忍足先輩の笑顔は人に拒否をさせない何かがある気がする
それは決して威圧ではないのだが断れば空気が悪くなる
そう思わせる何かがあると、うちは思う

そうしてうちらは4人で帰ることになった
端から千歳先輩白石先輩忍足先輩そしてうち
人通りも車の交通も少ないのをいい事に横一列に並んで歩く
忍足先輩は先ほどからしきりにうちに話かけてくれる
うちはそれに相槌を打つのが精一杯で何故だか白石先輩はチラチラと忍足先輩の方を伺っていた
千歳先輩はそんな白石先輩を見ながら何も言わず微笑んでいる

途端、急に忍足先輩がうちの手を掴んできた

「じゃあ俺ら行くとこあんねん!」

「えっ!?」

そのまま白石先輩と千歳先輩を置いて帰宅するには反対方向へうちの手を引っ張ってゆく

「けっ謙也!?」

白石先輩が慌てた様子で何か叫んでいたが自分の事でいっぱいいっぱいのうちにはよくわからなかった
ただうちを見た忍足先輩がすごく楽しそうに笑っていたので不安も焦りもなんだかどうでもよくなってしまった
そのままうちらは白石先輩と千歳先輩を置いて繁華街へと繰り出した