恋なんてものは面倒くさい
赤の他人の一挙一動に一喜一憂するなんて
浮ついた同学年をみながら常に思っとった
ふとそれを口にしたら「恋は前触れなく訪れては乙女の心をかき乱すのよ」なんて言われた
なんだ、乙女って
うちは適当に相槌をうちながら早く放課後にならないか思案していた
早くテニスがしたい


「こんにちはー………白石部長?」

「あ、光。今日も早いなぁ」

そう言う白石部長の方がよっぽど早いやないですか…なんて言葉は口から出なかった
ただポカンと口を開けながらうちの視線は白石部長の隣に立つ人物に固定されていた
頭は眩しいほどに脱色されていて瞳はくりくりと輝いている

「あぁコイツ?男テニ部長でうちと同じクラスの忍足謙也や」

そう紹介された忍足先輩はうちを見てニッコリと笑った

「ども、忍足いいます。白石の後輩って事はもしかして光ちゃん?」

「えっ…あ、はい」

思わずどもってしまった
家族以外で男の人から名前で呼ばれたのは初めてやった
多分白石部長からうちの話を聞いていたからなんやろう
けれど決して嫌な気分には成らなくて別にいっかなぁ…なんて思えたのはこの人なつっこい表情のせいだろうか
この忍足ゆう先輩は普段から無口だ無表情だ言われるうちとは正反対でずーとニコニコしとった

「よろしゅう」

そう言われて右手を出された
握手って最初わからんくて気付いてから慌てて右手をだしたら声を出して笑われた
なんや太陽みたいやった


それからうちの心はあの人にかき乱されるようになった