千歳はゆっくりとやさしく俺に口づけをした。舌を入れることも押し付けるようにする事もなく撫でるように俺に口づけたのだ。ゆっくりとした動作で始まりゆっくりとした動作で進んだその行為。そしてまたゆっくりとした動作で千歳の唇は俺の唇から離れた。
伏せていた瞼をもたげればすぐ近くには当たり前だが千歳の顔があり、目が合えばゆっくりとやさしく微笑んだ
俺はその笑顔がたまらなく好きで好きで愛おしくて、だから同時にその笑顔を向けられると胸のあたりがキュウと痛むのだ
それは決してトキメキなどという甘くて煌びやかなものではない。それは辛くて醜い嫉妬なのである
千歳はいつだって俺を見ていない。俺を見ながら見ていないのだ。あの俺がたまらなく大好きで愛おしい微笑みは俺に向けられているのであって俺に向けられているのではないのだ

「むぞらしか」

そう言って涙をこらえて俯く俺の頬を撫でる千歳の腕をやんわりと拒み逆に俺が千歳の頬に手を伸ばした
そして今度は俺が千歳に口づけた。唇にではなく右瞼に
この目はなにも見ていない。それでいていつも彼をみている。千歳は俺を通して彼をみてそして俺に愛をささやくのだ。なんて酷い男だろう

しかし俺がそれを拒めないのは結局のところ俺がその酷い男に惚れているからである
千歳は俺との…俺の口づけが好きだ。それはきっと彼も俺と同じように薄い唇を持っていたからだろう。

千歳の右瞼にゆっくりとやさしく口づけをしながら考えた。もしこの右瞼の皮に豪快な笑顔とともに覗くすこし大きめの前歯とは似ても似つかない薄くて少し細長い俺の前歯を突き立てて喰い破ってみたならば千歳の目に俺は俺として映るだろうか




そんな勇気など持ち合わせていないのだが








恋の仕方を知らない少年達
(俺はまだ罪を知らない子供なのです)