「これでよし、と」

大きめのマグカップにシチューを注ぎパイ生地で蓋をする
それをチキンを取り出したばかりでまだアツアツのオーブンに入れて焼き上げる
その間にサラダ油、お酢、醤油、ごま油に入りゴマを混ぜてドレッシングを作る
冷蔵庫から予め作っておいたサラダを取り出して薄くスライスしたローストビーフを並べて仕上げにそのドレッシングをかけてやる
チキンとサラダをテーブルに運んでいればオーブンが鳴った
アツアツのそれを布巾で包みながら火傷しない様丁寧に並べれば

「ちょっと作りすぎた……なんて事はないか」

久しぶりに他人の為に作った料理は記念日というのもあって気合いが入り過ぎた気もするがいいだろう
冷蔵庫からシャンパンを取り出しているとインターフォンが鳴った

「はいはーい」

シャンパンもまたテーブルに載せると軽い足取りで玄関へ向かった

「コシマエ誕生日おめでとう」

扉を開いた途端その言葉と共に強く抱きしめられた

「ありがとう」

軽く唇に口づけを落とされてゆっくり体を離される

「今年は晴れてて良かったわぁ…あ、これプレゼントな!ケーキも買ってきたで」

ホイホイ、とケーキの入っているであろう四角い箱とポインセチアを基調とした白とピンクの花束を渡される

「ちょっ…待って持てないよ」

越前が慌てて部屋に入りテーブルにプレゼントを置くと部屋の隅に鞄を置いた遠山はゆっくりと越前に近づいた

「なぁコシマエ…もう一個プレゼントがあんねん」

越前はその言葉にケーキの箱を開ける手を止めた

「わいら来年で大学卒業するやろ、んでわいもやっとプロらしくなってきたし、それでな」

越前はその言葉の先が思いついて目を見開いた
遠山はそっと白い越前の手を取った
まだ手袋すら外してない手は少し震えている
こいつにもこんな風になる事があるんだと思うと少しビックリしている冷静な自分がいた

「わいと結婚してくれへん?」

遠山は越前の手を握っていた方とは逆の手でポケットからベロアで包まれた小さな四角い箱を取り出し越前へ差し出した
そっと遠山の手から自分の手を引き抜きその箱を受け取るとゆっくりと蓋を開けた
そこにあったのは予想通りシルバーリングであった
それを認識した途端越前の目からは大粒の涙が溢れてきた

「はい……」

遠山はホッとした表情をするとそれから顔を引き締め手袋を外し越前の手から箱を取るとそこからリングを取り出し越前の左薬指に恭しく通した

「良かった…ピッタリや」

「なんで指のサイズ知ってんの?」

「………勘?」

「はは…金太郎らしい」

ようやく笑いをこぼした越前に遠山も笑った
それから肩を引き寄せるとゆっくりと口づけた