大学生か社会人位で同棲してます





真田は机の上に置かれていたそれに眉をしかめた

「幸村」

それを手に取りその持ち主であろう人物を呼ぶ
この家にあって自分のものでないのなら自分じゃない方の住人である彼女のものに他ならないであろう

「お前…煙草など吸っていたのか」

「は?」

呼ばれて部屋に入るなりいきなり心外な事を言われ幸村もまた眉をしかめた
幸村が運動、テニスに勤しむ身である事も、健康に人一倍気を使う事も彼は知っている筈だ
そんな彼になぜいきなりその様な事を言われるのか
そこまで考えて、彼の手にあるそれを見て幸村は理解した

「あぁ、それか」

幸村はクスクスと笑いながら真田の手からライターを奪った
真新しい、コンビニなんかで帰る百円ライターだ

「これは、久々に油絵を描こうと思って買ってきたんだ」

真田は幸村の言葉に合点がいかないと言う顔をした

「絵を描くのにライターなど使うのか?」

「んー絵を描くのにっていうか、使ってなくて固まって開かなくなった絵の具の蓋をライターで軽く炙ると絵の具が溶けて開く様になるんだ」

昔は油絵の道具と共にしまっていたのだが先日見てみたら入っていなかったので買ってきたのだ
場所も取るし時間もかかる油絵からはずいぶん長い事離れていたからおそらくどの絵の具の蓋もカチカチだろう

「心配してくれてありがとね」

「うわっ」

幸村は言うと人差し指で真田の額を弾いた
女性とはいえスポーツ選手のデコピンは割と響く
まして不意打ちでくらってしまったものだから真田は驚きも混じり声を上げてしまった

「だけどそんな事を思われるとは心外だなぁ」

「俺もまさかとは思っていたが事実を確認するまでなんとも言えんだろう」

「そーですか」

ツン、と拗ねた様な態度をとる幸村に真田はうろたえた
幸村はそんな真田が面白く再びクスクスと笑いをこぼす

「冗談だよ、別に怒っても拗ねてもいないさ」

幸村は笑いながら真田の肩を叩いた
真田の顔の強張りもほどける

「何の絵を描くんだ?」

「………海」

幸村は一瞬迷ってから即座にそう答えた

「そうと決まったら海へ行こう!」

「今からか!?」

幸村は真田の腕を引いた

「思い立ったら吉日って言うだろ!」

幸村がひまわりの様に笑うものだから真田は仕方ないと息を吐いた
なんて、彼女に勝てる事などある訳がないのだ

「車のエンジンを入れてくるから荷物を纏めておけ」

「真田愛してる!!」

けれどもそれも可愛らしい事を言いながら頬に口づけでもされたものならば悪くないと
むしろ幸せだとすら思えるのだ