白石は触れ合いそうになった指先を慌てて引いた
ささやかで、それは懸命な判断であった
けれどそれは無意味であった
逃げた手のひらはスルリと伸びた浅黒い手のひらに捕まってしまったからだ
自分のよりひとまわりは大きくて、分厚い
指だって武骨でボコボコと節くれだっつ固い
そしてなにより熱い
温かいなんてものじゃない
熱い
その手のひらに包まれた時白石は心臓が止まるかと思った
もちろん止まる事はなかった
けれど白石は理解した
いま心臓が大きく跳ねて一瞬縮こまったのは手のひらを媒介して心臓を捕らわれたからだ
痛い痛い痛い痛い痛い痛い
なのに、気持ちいい
ゆるり、と手のひらから視線を上げれば彼はにっこりと笑っているだけだった
質が悪い
なんだか涙がでそうで鼻の奥がツンとした
今ならまだ逃げられる
まだ間に合う
頭の中で繰り返すのは本当はそれが無理だとわかっているから

「白石」

喉がカラカラに張り付いて声が出せなかった
兎にも角にも白石はこの瞬間には一生逃げられない檻に迷い込んでしまっていたのだ
鍵はいつだって開いているけれど逃げられない檻に
そこはあまりにも心地よかった







(よくわからない)