「あ、」

昼飯をつついていると隣の光が何かに気付いた様に声をあげた

「どないした?」

もぐもぐと咀嚼する口の中の米粒のふりかけは、おかか
昨日も今日もきっと明日も一瓶使い終わるまではのひと月はきっと毎日おかかだ
本当はおかずの味で白米を食べるのが好きだが言わない
かわいい彼女がつくってくれたお弁当ならばそれがモストだから

「帰りに本屋寄ってええですか?」

「えぇよ、そういや今月ブリーチの新刊でた気がする」

「それ先月っすわ」

「マジで!?」

光はマジっすわ、と呟きながら卵焼きを半分に箸で切って口に運んだ
光の卵焼きは甘い
それでいて牛乳を入れるから焦げやすくて見た目があまりよくない
そして俺は光の卵焼きで初めて砂糖の入った卵というのを食した
我が家は塩と胡椒と少しのほんだしで味付けをする
光はそれを知らない
俺は光の弁当箱に残った卵焼きの半身を箸で摘むとそのまま口の中に放り込んだ
光は俺以外と弁当を食べる時にわざわざ箸で卵焼きを半分に分けない
そのまま口に運んで、半分かじる
無意識なのか意識的なのかしらないが、ちょっと嬉しい
自分が彼女の特別であることを自覚するから
言ったらきっと怒るし、次から卵焼きを食べる時にその事を意識するだろうから言わない
ただ毎回、心の中でほくそ笑む
卵焼きを奪われた光はジトっとした目で少しだけ頬を膨らまして俺をみてから箸を伸ばして俺の弁当箱からミートボールを盗んだ

「あっ最後に残しといたんに!」

「自業自得っすわ」

「ちくわいただき!!」

「あっ!!」

もぐもぐとミートボールを食べる光の弁当箱に手を伸ばし、今度は中心の穴にキュウリの積められたちくわを頂く
すれば光は俺の弁当箱からきんぴらをくすねた
ついでに言っておけば俺の弁当箱にも卵焼きだってキュウリの積められたちくわだって入っているし
光の弁当箱にだってミートボールもきんぴらも入っている
もっと言うならば、俺も光も卵焼きもミートボールもちくわもきんぴらもそんなに好きな訳じゃない
嫌いじゃないけど特別好きって訳でもない
要するに、普通
だから沢山食べたい訳じゃない
そんなの俺も光も言わないけどわかってる
ただ、じゃれあいたいだけ

「とりま帰りに本屋やな」

「通学路んじゃなくて駅前のにいきましょ」

「あれ駅挟んで向こう側やん」

「せやけど通学路の小さいっすわ」

「まぁえぇか」

「そしたら下のマクドいきましょ」

「俺なんやったけ、新しいアメリカンバーガー食べたい」

「前回のビミョーっしたよ」

「イダホバーガーうまかったで」

「…イダホ?」

「ほら、前々回のやつ」

「謙也さんそれ…アイダホバーガーですわ」

「マジか!?」

「マジっすわ」






(小さくも美しい日々)