「痛っ…」

隣から聞こえた声に謙は着替えの手を止めた

「どないしたん?」

「あー引っ掛けましたわ…」

声を上げた本人、光はポロシャツを脱いだ状態のまま眉間に皺を寄せ右手で耳を抑えていた

「ピアス?」

「すわ…」

そっと手を離すと指先には僅かながら血が付着していた

「あーあー」

謙は光の耳朶からピアスを一つ外してやる
傷に触れたのだろう
一瞬ピクンと光の肩が震えた
そこはゆっくりとだが確実に出血している
彼女の白い肌にそれはかなり異様に見えた

「あーもぅ」

光は謙に渡されたピアスを弄りながら不機嫌そうに呟いた

「あ、垂れる」

じっ…と光の耳朶を見ていた謙が呟いた
そしてそのまま彼女は反射的に傷口へ口付けた

「ひぁ!?」

ペロリと舐めると血の味がして穴の部分が感じられる
それからチゥ…と吸い付いて止血するとカチリと残っていたピアスが歯に当たり音を立てた
息がかかるというなんて程ではない距離でそれを聞き、感じていた光は思わずそのまま固まった

「あ、止まった」

唇を離した謙は光の耳朶をみると嬉しそうな声を上げた

「なっ…にしはるんですか!!」

「何って…止血?」

あっけからんと言われ毒気を抜かれた光は小さくため息を吐いた

「やっぱりピアス危ないて、着替える時くらい外すべきや」

「面倒くさいっすわ」

色々と諦めて光はワンピースに袖を通した
謙も思い出した様に中襟を留めてスカーフを通した
そんな彼女を横目に見ながら耳朶に籠もる熱に気を取られない様にと念じながらニーハイに足を通す
それから鼻歌を歌いながら靴を履き替える先輩を一瞥して今度は気付かれないように再びため息を吐いた