「かんぱーい」

四天生行きつけのお好み焼き屋に響く声
突き上げられたのはオレンジやらサイダーやらのソフトドリンク
それでも楽しかった
謙也がどんどんと焼いていって
白石がソースやらの仕上げをして
小石川が配ってくれる
図らずもそんな役割分担に成っているのが面白い
もんじゃ焼きは今まで何回か食べてきたがいまいち巧く食べられずに金ちゃんに殆どをもっていかれた
みんな受験なんかで忙しいだろうにわざわざ集まってくれた事が嬉しかった


「にしても今年ももう終わりやなぁ」

白い息を吐いて白石が呟いた
散々騒いで現地解散
俺の手には鞄に入らなかったプレゼントの入ったビニール袋がぶら下がっている
比較的学校に近い店から更に学校側寄りに家があるのは俺だけ
しかし隣には白石がいる

「白石が泊まりにくんのも久々やね」

「せやな、やっぱ最近忙しかったし」

白石は私立に行くらしい
はっきりとした将来ビジョンを描いている彼は真っ直ぐとそこへ向かっている
俺は小さく笑って、何も言わなかった
目敏い白石はそれに気づいて眉間に皺を寄せた

「なぁ…千歳は進路どうするん?」

「んーどしよっかねぇ」

「もう、決まってるんやろ」

白石はピタリと足を止めた
言葉は問いかけの様で、実際は確認だった
イエスだと言え
そう目で訴えかける白石に俺はまた笑った

「白石は、どうして欲しか?」

「え?」

白石は予想外の言葉に目を見開いた

「俺にどうして欲しい?」

九州に帰って欲しい?
大阪にいて欲しい?
向こうの高校に進学して欲しい?
こっちの高校に進学して欲しい?
それともいっそ東京に行って欲しい?
同じ高校がいい?
遠い高校がいい?
あらゆる可能性を込めた問いかけ
白石は眉を潜めてもごもごと小さく口を動かした

「………一緒に年越しして欲しい」

「は?」

白石が言ったのはそれこそ予想外の言葉だった

「俺は、一緒にお前の誕生日祝って、それから年越しして、んでそれを毎年繰り返したい」

白石はゆっくりと涙を流した
その震える肩を引き寄せて涙を拭う

「俺は、千歳と繋がってたい」

一緒にいたい、ではなく繋がっていたい
拘束はしない、けれど離れたくはない
そういう事なのだろう

「白石」

「なんや」

「俺はこっちの高校へ進むけん」

「……ほんまに?」

告げた途端に彼の声が明るくなったのがわかった
やはり何だかんだ言っても寂しかったのだ
そうでなければこちらも寂しい

「俺がお世話になってる大学の附属に行くと、推薦もくれたし奨学金も出してくれる言うけん」

千歳が無我の研究でお世話になっている大学
そこが千歳を附属高校へ呼んでくれたのだ
千歳も大学も無我の研究を続けたいという利点が合致し
幸い千歳は授業にこそ出ないが飲み込みは早いし元が賢い為に詰め込み勉強ながらそれなりの成績を納めていた
そしてそのまま確約を貰ったらしい

「ちょい待ち、千歳がお世話になっとった大学の附属って…」

「白石、応援してるけん」

そして府下有数の大学附属高校のそこは白石の第一志望であった

「……帰る」

「なして!?」

「なんや腹立ってきた。帰って勉強するわ」

「一緒に年越しすると!」

くるりと踵を返した白石の腕を慌てて千歳は掴んだ
振り向かない彼の耳が赤いのはきっと寒さのせいだけでないのだろうと思うとちょっと笑えてきた

「今日くらい休みなっせ」

そのまま腕を引いて歩けば白石は大した抵抗もせずに着いてくる
しかしよほど隠したいのか顔は俯いたまま

「白石」

「なんや」

「白石の誕生日も一緒に過ごそ」

カバリと顔を上げた白石の目には薄っらと涙の膜が張っていた

「とぅわっ!!」

そのまま抱きついてきた彼を受けとめて
こんな誕生日が繰り返されればいいと思った





千歳ハピバ