「せやっ今夜星見に行こうや!!」

それは夏の終わりの話やった
部室のパイプ椅子から急に立ち上がった謙也さんはいきなりそう叫んだ



「謙也もたまにはええこと言うんやなぁ」

「たまにはってなんやねん」

あの後、白石部長が真っ先にそれに賛同してそれからはとんとん拍子に話が進んだ
それから皆いっぺん帰宅して着替えてからもっかい学校の校門に集まって千歳先輩のお薦めの穴場へ向かう
普段からめったに人の通らない灯りのない土手の細道を馬鹿みたいにはしゃいで歩いた
それがどこかみんな無理している様に見える
明るく振る舞わなければなんや色んなもんに押しつぶされそうやった

先輩らは今日で引退やった
白石部長も小石川副部長も一氏先輩も千歳先輩も師範も小春先輩も、もちろん謙也さんも




「おぉ…!!」

千歳先輩お薦めのスポットは学校からしばらく歩いて裏山を迂回した先にあるちょっとした開けた高台やった
緩やかな坂道を登った先に広がったのは一面の星空で
誰ともなく重なった感嘆の声
やけどその中でも確かに謙也さんのものだけが耳についた



「あれがデネブ、そっちのがアルテウス、それがベガで、んでもってそれ三つ繋いだら夏の大三角や」

「謙也さん意外と頭ええんっすよね」

「意外ってなんやねん」

言いながら謙也さんは夜空を指でなぞる
そのおっきな瞳にキラキラと星空が反射しててすっごく綺麗で

「光?」

「はいっ!?」

そんな事を思っていたら謙也さんがこちらを向いて思い切り目があった

「せっかく来たんやから星みいや星」

「えっ」

すると謙也さんは視界を共有する為にうちにグイと顔を寄せてきた

「ほら、あれが白鳥座の…」

謙也さんの息がかかる位に声が側で聞こえる
今にも頬が触れあってしまいそうで、それが凄く嬉しいはずなのにどこか寂しい自分がいる
こんなに近くにいるのに謙也さんには、体も心も触れられない

「見つかった?」

「えっとあれが鷲座で…あれ?」

「どないした?」

「………織姫が…見つからんくて」

謙也さんの後を追って指を滑らす
だけど一向にベガが見あたらない
そこにおるのは確かなのにうちの織姫は彦星と巡り会えない
それじゃあまるで

「広い夜空に1人ぼっちで残されたみたいや」

「光……?」

スルリと自分の口から滑り落ちた言葉に自分で驚いた
謙也さんも瞳をパチクリさせていて恥ずかしくなった

「なっなんでもな…え?」

慌てて否定しようとしたら謙也さんがフワリとうちの頭を撫でて、思わず言葉を失った

「光は優しいんやな」

その表情の柔らかさに涙が出るかと思った
優しいのはあなたの方ではないか

「大丈夫やで!光が見つけられへんかった彦星は俺が見つけてやるっちゅー話や」

ニカリと笑うその顔はどんな星よりも太陽よりもうちには輝いて見える
謙也さんがうちの代わりに彦星を見つけてくれへんならうちは一生彦星を見つけられへんでも構わへん
そしたら、一生一緒に星を見てくれはりますか?
なんて言える勇気なんてもちろんなくて唇をキュッと結んだ
いつだってうちは臆病で強がって、恋にも謙也さんにも興味がないふりをして
みためとかだけじゃなくて、性格だってもっと素直でかわいらしい女の子だったら
そしたら謙也さんは
考えれば考えるほど胸の痛みが増していく
あぁそっか、好きになるってこういう事なんだ

「光…?」

名前を呼ばれて謙也さんの顔を見る
謙也さんの笑った顔も怒った顔も全部全部思い出せる
全部全部大好きで
もう全て思い出になってしまうなら

どうしたい?言ってごらん

心の声がする


「謙也さん……」

うちは、貴方の隣にいたいです

なんて
言いたい
けれど言えない
だって貴方の優しさは残酷だから
これは貴方が知ることはない私だけの秘密

そう、私だけの


「なぁ光…俺な、光の隣におりたいんやけど」


そしてこれから先は
私達だけの







秘密の物語




song by supercell (you are not know story)