貴族×奴隷パロ
フィーリングでお願いします
(謙也♀=謙)







「これ、何かわかります?」

光がチャラリと差し出したのは同じ様な形をした3つの鍵のついた鍵束
それは謙にとって酷く見覚えのあるもので無言でコクリと頷いた

「言うてみ?」

顎で指されて、口を開く
彼女は主人の許可の下で全ての言動をするように躾られていた

「うちの、足枷と手枷と首輪の鍵」

「当たりっすわ」

光はサイドテーブルに鍵束を置いた
2人はベッドの上に向かいあって座っていた
基本的にこのベッドの上が謙の活動拠点
たまに、光にあの鍵で枷と首輪を外され出かける事もあった
枷と首輪には鎖が繋がっておりベッドの上くらいならば余裕で動ける程の長さをもって壁に埋められていた
労働をさせられない謙の手足は細く歩けるが少し走れば音を上げる程度の筋肉しかなかった
謙の仕事はただ、この部屋で光の話相手をし、たまに彼の気紛れに応える
ただ、それだけだった
彼女の生活は何年もそのサイクルで埋め尽くされていた

「今から3つ、あんたの願い叶えてあげます」

「うちの…願い?」

三本の指を差し出した光に謙は首を傾げた

「せや、俺が叶えられる範囲ならなんでもえぇ…例えば」

光は三本の指を一本に直し再び謙へ突き出した

「一、この鍵束が欲しい」

光は逆の手で鍵束を再び持ち上げた
謙がパチクリとこちらを見ているのを確認してからもう一本指を増やす

「二、この屋敷から解放してほしい」

謙の瞳が大きく見開かれた
光はそのまま表情を変えずに淡々と続け、指を増やす


「三、生活に十分な金が欲しい」

それだけ言うと指を下ろした

「とか…な」

謙は口を開いては言い澱む様に閉じてを繰り返した
チャリ、と鎖の鳴る音がして、みれば譲が強くシーツを握っていた

「本当に…なんでもえぇん?」

謙は光に敬語を使わない
光がそう望んだからだ
謙のキャラメル色をした瞳は光の漆黒の瞳を見上げる
キラキラとガレットの様に輝く謙の瞳と対象的に光の瞳にはハイライト一つ見つからなかった

「なら、うちは…」

謙は小さく続けて一度口を噤み視線を下げる
光は無言で続きを促した

「一つ目は、うちを棄てないで欲しい」

光は大きく目を見開いた
しかしシーツだけを見つめる謙には気づかれなかった

「2つ目は、此からもうちとこうやってお話してほしい」

謙の言葉は小さく震えていた
共鳴するように震える手のひらを包んでやりたくて光は自分の手のひらを強く握りしめた

「三つ目は…」

謙はゆっくりと再び光を見上げた
謙の瞳は薄い涙の幕で覆われていた

「幸せになって」

光は耐えきれずに謙を思い切り抱きしめた
痛いだろう抱擁に謙は何もいわなかった
ただゆっくりと続けた

「前の2つは、別に無理ならえぇねん…やけど、三つ目だけは叶えて、な?」

光は何も応えなかった
応えられなかった
代わりに更に腕へ力を入れた

「俺からも、お願いがあるんや」

謙は鼓膜を震わす声にそっと耳を傾けた

「俺の………側におって」

謙はゆっくりと瞼を閉じた
溜まっていた涙が一粒こぼれた

「えぇよ」

謙はあやす様な口調で応えた
けれど決して光の背中に腕を回そうとはしなかった
彼女は本当は知っていたし解っていた
彼が明日、お家の許嫁と結婚する事を、本当は自分を逃がしにきたんだと
そして彼女はもう一つ知っていたし、気付いていた
彼が自分を愛してくれていた事を
自分も彼を愛している事を




けれど彼を抱き締めるには少し自分の手枷は重すぎたし
彼と愛し合うには自分の身分は軽すぎたのだ







調教したのは光ではなく売り屋です