むくりと白石は起き上がった 薄っぺら委掛け布団が肌に張り付いている それを緩慢な動作ではぎっとってから隣に視線を送れば浅黒い腹筋をさらしてのんきに眠る男がいた 腹筋をゆるりとなでて、それから自分の腹を見る 指先で感じた雄雄しく感じた凹凸は自分には、ない 白石だって体力はあるほうだった しかし体質的な問題なのか余計な肉もそして筋肉もその身を覆うことはなかった 薄い皮膚の下の薄い筋肉 貧相な体が少し嫌いだった 腹筋とかだけじゃなくって、色素の少ない肌だとか、薄い体毛だとか、線の細い体つきだとか おおよそ男らしくないそれが好きではなかった それに比べ、がっしりとした肉体だとか、日に焼けて真っ黒の肌だとか、轟々とした体毛だとか 男らしさを体現したかのようなそれらは俺がどんなに願っても手に入らないものであった だqからこそ惹かれたのかも、なんて すべてではないだろうが理由の一端を担っていることは確かであろう 何にと具体的にはいえないが、言葉にできない何かというこいつの全てに俺は引かれたのだろう それはこの春先のことであるのにひどく昔のことのように感じられ、 それくらいにこいつが隣にいることが当たり前で むしろ隣にいないことに違和感を感じてしまうほどにこいつは俺の一部みたいなものであり 俺の隣はこいつの居場所で、俺の居場所はこいつの隣で、一緒にいるのが当たり前で と、そこ目で考えて白石は考えることを放棄した 覆った顔が暑いのは気温のせいではないのだろう 隣のこいつはいまだに目覚める気配がしない 一糸纏わぬそのわき腹を八つ当たりに少し蹴飛ばせばちょっとだけうなったがたいした効果はないようだった 同じような格好をした自分に少しため息をつき、この状況になれた自分にちょっと苦笑したがいやな気分ではなかった あたりに散らばった衣服を摘み上げて脱衣所へ向かう それを全て洗濯機に放り込んでからシャワーを浴びることにする あいつはいつだって脱ぎ捨てた服の上で後処理をするから服のあちこちには半透明なブツがついている 敷布団を汚さないためだとは知っているからなにもいわないがこれを手洗いする気にもなれず汚れの多い物専用のコースを選択する 背汗やらなんやらでべたつく体をシャワーで流してから脱衣所に戻る 扉に引っ掛けられたハンガーからバスタオルを取り軽く体を拭き髪も軽く拭う そこまできて何も身に纏うことがないことに気づいた 一間しかない居間へ行けばベランダからさんさんと降り注ぐ太陽はすでに真上に近くなり時計を見やれば長針も短針も同じだった そしてあいつは未だに寝そべっていたのだが人肌で暖められた布団から逃げ出したのか畳の上に寝そべっていた その身をまたいで押入れへ向かいそこから下着をとりだす あいつのトランクスに混じって自分のボクサーがあるのが少し笑えた 自分の服がトレーナーとスウェットしかなくてあいつの服を拝借することにしたのだが未だに衣替えをしていないのかあいつの服も同じようだった 段ボールをあさるのも面倒で、あいつが春先に着ていた服に袖を通す あいつの服を着て、そこからあいつの匂いがする 昔はぶかぶかなそれにちょっとした劣等感だとか焦燥感だとかを抱いていたのだが今は純粋に幸せだと感じる 側にいるだけで幸せになれる人がいて、その人の側にいることができて、あまつ自分はその人の特別で ゴロリとそいつの横に寝そべった 冷たい畳が心地よかった 千歳の隣が心地よかった 洗濯機の音でパチリと目を覚ますと向かいに同じように目を覚ました瞳があった 「おはよう」 「おそようや、あほ」 |