(関東大会のあの日に幸村の手術が失敗したらなIFパラレル)








「今だから言えるがあの時はお前が腹を切るなどと言い出さないかヒヤヒヤしていたよ」







「なぬ……?」

ギロリと睨みつける弦一郎に俺は肩をすくめて見せた

「今だから言えると言っただろう。笑い話だとおもって聞き流せ」

「む………」

弦一郎はいまいち納得していない様子だったが俺に口で勝てるはずもないのは明々白々であるし、なにより彼の手前で口論など避けたかったのだろう
弦一郎は俺に向けていた視線をゆっくりと前へ戻した

「そんな事をしたって何も変わらぬ…ならば俺がコイツの分まで背負おうと思ったのだ」

サァ…と一陣の風が吹き俺と弦一郎の髪を撫でた

「思い出すな」

弦一郎はなんの反応も示さなかった。しかし俺の話を聞いてるの確率は100%だろうからさして気になどしなかった

「こうやって風が吹く度にアイツは俺等の髪を羨ましがったな」

「あいつの髪質も好きだったがな」

「クスッ」

やはり俺の読み通り聞いてはいたみたいだ。しかしその答えには思わず苦笑してしまった

「髪質が…なのか?」

そう言えば頬を真っ赤にしながら苦虫を噛み潰したかのような顔をして振り返った。お前の事など今更お見通しである。

「それはお前もだろう」

これには驚いて思わず瞼をもたげた

「これは一本取られたな」

ふるふると頭を振り一息付いてから弦一郎の隣に腰を下ろした。慣れているはずの線香の香りが嫌に鼻をついた
無言で目を閉じ両手を合わせる。ここに彼がいるとは思えないし思いたくもないがそれでもここで彼を思うのだと思うと酷く矛盾していて笑いたくなった(勿論そんな事は決してしないが)


「もう5年もたつのだな…」

「あぁ…」

あの時止まったかのように錯覚した俺らの時間は着実に進み彼を置いていった。おそらくこのまま何十年もの月日を彼を置き去りにして俺らは進みそしてゆっくりと彼に追いつくのだろう。はたして実在するかもあやふやな場所で彼は俺らを待ってくれているだろうか



ガヤガヤと聞き覚えのある声に腰を上げてそちらをみるとやはり俺らと…そして彼と5年前まで共に戦っていた仲間とも呼べる見知った顔であった
小さく手をふればこちらに気づいたらしく彼とはあまり似ない癖毛持ちの青年が大きく手を振ってくれた。それに気づいた弦一郎も腰を上げる


「なんか成り行きで合流しちまったんだよなぁ」

「まさか同じ電車とは思わなかったっス」

「プリ」

「お供え物を漁るのは止めたまえ」

「ちょっ…もっと丁寧に水かけろよっ!!」

懐かしい面々と変わらない雰囲気に思わず笑みが零れた
先程は確かにここに彼はいないといった。しかし彼はここに眠っていないだろうが今この瞬間はきっと彼はここにいるのだろう。何故なら彼を慕って何の相談も要請もなしに俺達は集まったのだからきっと彼が集まっていない訳がない






「よかったな精市、お前はこんなにも俺達に愛されているぞ」




確かにそこで微笑んでいる彼の顔が見れないのが酷く残念に思えた





終わらなかった夏の輝き
(彼はまだ俺達の中にいる)








幸村の命日に墓前にてR勢揃い