久々に知念の顔を見た
とは言っても三日ぶり位なんだけど、いままで何年間も毎日見てきたから凄く久々に感じられた
知念の隣にいた知念のお母さんはボロボロと泣いていた
知念のお母さんはスラッとした美人で垂れ目な知念とは違う勝ち気な吊り目がカッコいい女って感じがする人だ
だが今はその面影もないくらいに窶れていていつもより幾分薄い化粧もボロボロと剥がれていた
それに気づいているのだろう
常に真っ白なハンカチで目元を拭っていて目の回りは真っ赤に腫れ上がっていた
その横で並んで正座していた知念の顔は疲れていたが凜と張り詰められていた



知念の父親が死んだ

これには若干語弊がある
知念の父親が乗っていた漁船が難破した
かれこれ一週間前の台風に巻き込まれて通信が途絶え先日難破した船の一部が見つかった
船の先頭部の三分の一のそれを失って船は走れない
未だに死体は見つかっていないらしいが絶望的だろう
知念達は死体が見つかってからと言ったが知念の母が首を横に振ったらしい
黒い喪服に身を包んだ大人達のこの空間に俺らの白い制服はひどく異質に感じられてこの時ほどこの制服を恨めしく思った事はない
俺が、彼女が、ここにいることを否定されている気がした





「知念…!!」

くるりと振り返った彼女は少し儚く見えた
彼女の母親がかなり窶れていていたので気づかなかったが彼女自身も少し痩せた様にも思える

「………平気ばぁ?」

声をかけたはいいものの何も言葉が見つからず慌てて口を吐いたのはありきたりで、避けるべきだと思っていた言葉だった
だって、そんなの彼女の答えは決まっている

「なんくるないさー」

すこし眉を寄せて微笑みながらそう言った
平古場は自分の言葉に口をもどらせながら首筋を掻いて俯いた
少し歩を進め距離を詰めてからソッと知念の頬に手を伸ばした
自分が好きだった滑らかな肌は少しかさついていた
目の下にはうっすらと隈が浮かんでいる

「ゆくさー」

嘘つき、と言われ知念はゆっくりと目を見開いた

「泣きじーなちらしはる」

平子場は柔らかく笑ったがその顔も泣きそうだった

「なんくるない」

知念は未だ自分の顔に添えてあった手を掴んだ

「なんくるない、なんくるない…さぁ」

そう呟きながらだんだんと嗚咽を漏らし始めた彼女を平子場はゆっくりと抱きしめた

「なんくるないさー」

そう呟いて彼女の髪をなでる

「ヌーかあいびーたんら、わんを頼ればゆたさん」

知念は泣きながら小さくコクリと頷いた
言葉をかけられた知念よりも知念が頷いてくれた平子場が嬉しかった
彼女の隣にいることを許されたようで、同時にチクリと罪悪感も刺さった
知念は自分が何故ないているのかがよくわからなかった
父親がいなくなったからなのだろうか、それとも
ただ気持ちがすごく軽くなったのは確かだった
白い麻地に涙と共に心にくすぶっていた何かが吸い込まれていったかのようにおもえた

「ひろー?」

どこからかで知念を呼ぶ母の声が聞こえた
慌てて顔をあげると平子場に乱暴に瞼を拭われる

「ん、ちゅらかーぎー」

「ふら」

かわいいなどと揶揄されて憎まれ口を叩くと平子場は満足そうに笑った

「にふぇーでーびる」

そう言って知念は目の前でつり上がる唇に小さく口付けた
触れるだけのかわいらしいもの
それから慌てた様に声の方へとかけていった
こちらを向いて微笑んだ母の目尻はもう乾いていた
それを見て、先ほどまで自分に言い聞かせていた言葉がしっかりと現実に根付いた気がした

大丈夫、例えなにかがあったとしても1人では、ない







お待たせいたしました
ななさまリクエストの知念の過去(父親が居ない)と平古場の存在でした
公式では不明なので知念パパの生死はちょっとあやふやな感じにしてみました
あまりリクエストに添えた気がしない…のですが
こんな感じで宜しかったでしょうか??
付き合ってんだかないんだか色々と靄に包んでみましたがその辺は皆さまで自己補完していただければと思います
それではリクエストありがとうございました
これからもきすしてとなの子を宜しくお願いいたします