きっかけなんて下らない事だった
テレビのチャンネル争いから些細な鬱憤合戦になり元より素直になれない自分の性格と負けず嫌いな謙也さんの性格が悪循環してお互い引くに引けない口げんかになってしまった


「謙也さんなんて、嫌いっすわ!!」


嫌いになんてなれるはずもないのにおもわず口をついて出た言葉
それを受けた時の謙也さんの目を見開いた傷ついた顔を横目で見ながら勢いよく謙也さんの家を飛び出した
やないと、泣いてるのがバレてしまうから
自分の発した言葉に傷ついて大切な人を傷つけて、馬鹿じゃないか

俺は駅近くのベンチに座りながらカチカチと携帯をいじっていた
謙也さんへの短縮番号を打ち込んでは消し打ち込んでは消しの繰り返し
謙也さんの家を急に飛び出した際に鞄を置いてきてしまい、家族みな町内会の温泉旅行に行ってしまった家に帰れる訳にいかず
ひたすらこの場所で謙也さんへ電話を掛けようとボタンを押し、けれど謙也さんに見捨てられてたらなど考えたら恐くなり電源ボタンを押してしまうの繰り返し
傾いていた日はとうに暮れて辺りは真っ暗だった
夕暮れ時には学生やサラリーマンなんかもわんさかいたが今は少しの若者とカップルばかりで肩身が狭い
身を寄せ腕を絡めあい歩く恋人達を見かけるたびに自分らも街中でこそあぁはいかないが本当は今頃、謙也さんの家であんな風に寄り添っていたのだと思うと胸が軋んだ

「けんや…さん」

名前を呼んだって当たり前だけど返事はなくて、それがすごく胸に染みて携帯を持った両手に力が入った

プルルルルル

ふと、聞こえた電子音に伏せていた頭を上げた
手中の携帯ディスプレイに映るのは発信画面
無意識に携帯を握った時に発信ボタンを押してしまったらしい
表示された名前は何度となくかけようとして諦めた名前

プ…

電子音が途切れた

『光…?』

携帯を持ち直して耳に押し当てる

「謙也さん…?」

『光、やんな』

返ってきた声に嬉しさとか安心とかがはちきれて俺は情けなく街中でボロボロと泣き出してしまった

「謙也さん…け…んやさっ…ヒク…けや…グズ…」

ゴメンナサイだとか、言うべき言葉はあるはずなのに俺の喉は壊れたかのように謙也さんの名前を繰り返す事しかできなくて

『光?…光!?』

謙也さんの焦った声が背後の駅を通る電車の音に遮られて聞こえない
俺は痛いくらいに携帯を耳に押し付けた


「光……!!」

グイッと携帯を持っていない方の腕を引っ張られた
そのまま力強く抱き寄せられる
右耳に携帯を通した音で、左耳に吐息ごと直接、名前を呼ばれた

「謙也…さん」

携帯の電源をきるのも忘れて人通りの多い駅前で俺らは抱きしめあった
後ろ指だとか、人の囁き声だとかは気にならなかった
さっきまで忌々しかった電車の通過音さえ耳に入らない

「謙也さん、ごめんなさい」

「俺も向きになってもうて、ごめんな…光」

ぎゅう、と腕に力を込めれば謙也さんも入れ直してくれて、嬉しくてもっと力を入れた


これからもう一回謙也さんの家に行って、それから喧嘩する前よりイチャイチャしよう
テレビもなにもいらない
2人でいれば、なにもいらない
あんな、時間にしたらほんの二時間くらい離れただけでこんなに苦しくて辛くてたまらなかったのだから、きっと離れたら俺は死んでしまうんじゃないかと思う
やから、

「謙也さん、ずっと…俺と、一緒におってくださいね」

二人きりの部屋で隣に座る謙也さんに頭を預けて絡めた手のひらに力を込める

「当たり前や、」

すれば謙也さんはそっと頭を引き寄せて優しい口づけをくれた







リクに添えなかったので没
を、勿体ないのでうぷしとく