「ちょお、どしたん光!?」

「謙也さん、うるさいっすわ…」

振り返れば予想通りのその人
どうしたん?の矛先は言わずもがな

「その足どうしたん!?」

引きずりながら歩いていた右足の事だろう

「どうしたもこうしたも、階段から転けました」

こっちは本気やし痛くてかなわんちゅうのに吹き出したこの人にとりあえず拳をお見舞いする
笑い事やないっちゅーねん

「なしてそないな真似を…」

「委員会の資料を届けた帰りに急いで階段下りたらこの様っすわ…」

誰も好き好んで落ちた訳ちゃうし
しかも落ちる時に勢いついたまま足を捻ったらしくむちゃくちゃ痛くて右足に力が加えられないのだと付け足せばわかりやすく謙也さんの眉が垂れ下がった

「保健室には行ったん?」

「いえ…」

「あかんやろ!!もし捻挫とかやったらどないすんねん!!」

なんでこの人は赤の他人にこんなに親身になれるのだろう
そう思っているとヒョイと浮遊感を感じた

「はっ?え?謙也さん!?」

「まともに歩けへんのやろ?捕まっとき」

何がどうしたって、謙也さんはうちをいきなり抱きかかえた
しかも俗にいうお姫様だっこ、ちゅう奴で
そのまま校内走るもんやから恥ずかしくてかなわんくて、とりあえず顔を見られないよう謙也さんの胸に押し付けた





「捻挫ではなさそうやな」

たどり着いた保健室に養護教諭はおらず備え付けのソファに座らされたうちの向かい側で謙也さんが手当てをしてくれている
やっぱり運動部やからやろか、すごく手慣れていた
謙也さんはいちいち怪我した方の足を恭しく持ち上げては様子をみたり湿布を貼ったりと、とにかく丁寧に触れてくる
ましていつも見上げている顔が今は下にある
そして真剣な眼差しや手つき
なんや、いつも以上にカッコよく見えてしまうんは気のせいやろうか
そんな事を思いながら凝視していたら謙也さんがいきなり顔をあげた
びっくりして反射的に身を引いてしまう

「ほら、終わったで」

そう笑って一度包帯の巻かれた足を見せてから靴下を履かせてくれた
顔が、熱い

「今日はこんまま帰ろか、チャリケツ乗せたるから」

「えっでも謙也さん部活はどないするんですか!?」

「どうせ今日レギュラーミーティングやから問題ないやろ、せやかてそれじゃ帰れへんやろ?」

確かに足を引きずりながらの帰宅は辛い
謙也さんがそう言うからお言葉に甘えさせてもらう事にした


初めて乗った謙也さんの自転車の荷台で謙也さんのぬくもりを感じながらあんなに憎かった足の痛みがなんだか甘いものにも思えてきて、いつもと違う謙也さんをみれたりなんかもして不謹慎ながら役得や…なんて考えながらお腹に回した腕に力を込めた




(二代目拍手お礼でした。そして階段から落ちたのは私)