「…くらっ!?」

学校や部活中は名字で呼べ言うとんやろ、そう口に出す前に俺の意識は途切れた






「あ、目覚めたとや?」

一番始めに見えたのは白い天井、体を預けているのは慣れない固いベッド、横から聞こえた穏やかな声

「ここ…どこや?」

疑問を率直に口に出せば大きな手のひらで頭を優しく撫でられた

「保健室、くら部活中に倒れたけん」

あぁ、そういえばと思い出す
朝から体調は優れなかったのだが練習試合も近いので指示だけだして軽く打って帰ろうとしたのだ
最近は風邪やらインフルやらも流行っているからいつも以上に気をつけていたつもりだったのに、と1人思考を巡らせる

「部活は小石川がやっとったよ、ばってんもう終わったばい」

示された外を見れば真っ暗である。時計を見れば7時に成ろうとしていた

「くらはいつも頑張りすぎばい」

千歳の手は冷たくてきもちよくて、離れていくそれを思わず掴んでしまった
驚く千歳を気にもせずそれを頬にあてる

「きもち…い」

言えば千歳が真っ赤になった
それから苦笑して顔を上げさせられると額と額をぶつけられる
多分、熱があるのだろう、千歳との温度差が心地よい

「もう少し俺とか他人も頼らんとね」

「おらん奴をどー頼れっちゅーねん」

「………ごめん」

でも、なんだかんだで千歳は一番大事な時には側にいてくれる
寂しい時、不安な時、潰れそうな俺を支えてくれるのはいつだって千歳や

「千歳、」

「ん?」

「おおきに、な」

千歳がふんわり笑ったのが見えて、それから俺はまた意識を手放した







もう一度目覚めたのは自分の部屋で頭もスッキリしていた
でも、あの笑顔も手のひらもなくて、残念に思った自分に苦笑した

さぁ、学校に…アイツに会いに行こう
でなきゃ、きっとアイツは俺に会いに来る
惚れてるなぁって、惚れられてるなぁって思えて口角があがるのを感じた






(風邪には気をつけましょうってお話)