立海の真田と幸村を見かけた
寄り添って、手と手を取り合って歩いていた
幸せそうだと、そう思った
俺の望んでいるものがそこにあった気がした

俺と忍足は要するにセフレというやつで俺らの間にあの2人の様な愛なんてものは一切ない
それなのにアイツの手つきはひどく優しい
セフレなんてのはただの性欲処理なのだからもっと投げやりに事を進めればいいのに
アイツはまるで俺とのセックスをアイツの読むラブロマンスの一説の様に運ぶのだ
だから、勘違いしてしまいそうになる
優しさなんて、ひどくひどく残酷だ
スリルより安息が欲しい、しかし安息は時として依存に変わる
俺はそれが恐い



「なぁ、終わりにしないか」

行為の終わったベッドで背を向けながらそう言った
顔は、見たくなかった

「ええけど、偉い突然やな」

忍足はやさしく俺の髪をすく
それはこの関係にも、この会話にも、ひどく不釣り合いだ

「別に…いいじゃねえか」

シーツを強く握る
もっと可愛い女の子なら良かった
そうしたらこんな事にはならなかったかもしれない
もしかしたら恋人になれたかもしれない
なんて、俺らしくない

「なんやあったん?」
忍足の口調はひどく優しくてそれがすごく辛かった
でもきっと、こんな関係にならなきゃ口も聞けなかったのだろう
そっと、振り返ってキスをした
キスをしない、なんて陳腐なルールはなかった
でも舌も入れない官能のないキスをしたのは初めてだった気がする

「これ以上、好きになりたくない」

絞り出すような声
そっと、抱き締められた
同情なんかいらない、そう思いつつもこれが最後だと思うと拒めなかった
拒めない代わりに腕を回さなかった
もう、終わり

「そないな事、言わんといて」

ゆっくりと体を離された

「離しとうなくなるから」

小さく囁かれ唇を塞がれる
頭が、ついて、いかない

「好きやで、景ちゃん、やから離さない」

そう言ってまた抱き締められる

「う…そ、」

「嘘やないよ」

クスクスと耳元で笑い声がした
おずおずと背中に腕を回す
そしたら更に強く抱き締められたので回した腕に力を込めた

「セフレは終わり、これからは恋人…な?」

「うん、」

なんだ、愛も幸せもこんな近くにあったのだ
ただ、近すぎて、見るのが怖くて、気付かなかっただけなんだ

指を絡めるのも、押し倒されるのも、躯の全てを弄られるのも、初めてなんかじゃなくって何度も繰り返してきた行為なのにすごくときめいて、まるで生娘にでも戻った気分だ

愛撫もほどほどに一度目の行為で既に潤っているソコに奴のモノがあてがわれる
思いが繋がっているってだけでこんなに違うものなのか
思わず力んだもののそれすら押しのけて侵入してきたものを感じる
そっと下腹部を撫でてみた

「どないした、景ちゃん」

「……しあわせ」

ポツリと言えば笑ってキスされた

「せやな、しあわせや」

そう言って再び口付けると律動を開始してきた
上も下も、支配されている事が、すごく嬉しい
いいとこを抉られれば思わず舌を噛んでしまった
けれど気にした様子もなくシーツを握っていた手を背中に回させられる
それに従い広い背中に手を添えれば律動がいきなり早まる
思わず後ずさる躯の腰と頭を押さえつけられて逃げられない
いいとこばかり何度も刺激されて達すると忍足もコンドーム越しに達したのがわかった
それがちょっぴり寂しかった、なんてきっと一生言ってやらないが




「すまない…忍足」

終わってふと忍足の背中を見ると赤い筋が数本

「あぁ、ええってええって、わかってて手回させたんやし」

「は?」

赤い筋をなぞっていた指を捕られ爪先に軽い口付けを落とされる

「好きな子につけてもらうん、憧れてたんや」

ウインク飛ばしながらそう言うコイツをカッコイい、なんて思っちまう俺は重傷かもしれない





幸せだからいいけど






(まさかの初忍跡でした。)