「永遠っていいなぁって思いません?」

急に話を振られて、しかもそれが予想の斜め上をいく内容だったもんだからびっくりしてとっさに返事が出来なかった

「部長?」

再び声をかけられて我に返る

「ど…どうしたの、急に?」

そういえばこの子とゆっくり話をするなんて久々な気がする

「この前、柳さんに“永遠の誓い”とかってロマンチックですよねって話たら、永遠は現実味がなくて好きじゃないって」

「柳らしいって言えば柳らしいな」

幸村は乾いた笑いをこぼしながら涼しい顔をした後輩の恋人を思い浮かべる

「私も、昔は永遠に憧れてたなぁ…」

「昔は??」

幸村が缶のココアを一口啜るのを切原は眉間にしわを寄せながら見やる

「でも、入院してるとき、絶望の絶頂にいた私に真田が“死ぬまで絶対に離れない、別れない、側にいる”って言ってくれたの」

「真田さん…が??」

切原は目をまん丸に見開いた
頑固で厳格なイメージの強い真田がそんな愛の言葉を吐いたことが彼女には信じられないのだろう
わかりやすいリアクションに幸村もクスクスと笑ってしまう

「テニスも出来ないだろうって言われてかなり参ってたんだよね、で失う前に捨てちゃえって思って、別れてって言ったの」

二度目の衝撃が彼女を襲う
誰もが羨むほどに仲慎ましい2人にそんな過去があったなど予想外な事だ
幸村は構わず言葉を続ける

「そしたらそう言われて、あぁ限られた時間でもこうやってこの人と過ごすのも幸せかもって思ったの」

「…はぁ」

切原はそれしか言えなかった
彼女には壮大で、重すぎたのだ
幸村は苦笑してからそっと切原の手を取った
幸村のに比べ日に焼けた少し大きな手のひら

「どんなに永遠に憧れても永遠は手に入らない、だから人は一瞬一瞬を大切に過ごさなきゃいけないのよ」

そっと2つの手のひらを合わせ指と指を絡める

「好きな人と出会って、恋して、手を繋いで、キスをして、愛を育むってすごい事なんだよ」

幸村はそっと微笑んだ
その笑顔に思わず涙が出そうになってグッと耐えた

「部長…」

「ん?」

幸村は可愛らしく小首を傾げる

「やっぱり、永遠はいらない」

「……そう」

切原は勢いよくイスから立ち上がった

「その代わりに今、一生懸命恋する事にするっス」

切原は思い切り幸村に笑いかけそっと指を離した
顔を上げれば二人の待ち人がこちらへ歩いてくる
それが待ちきれなく切原は走り出した
そんな彼女と、彼女に抱きつかれた友人と、その隣の待ち人を見て幸村もまたゆっくりと立ち上がった





(私たちには今があればそれでいい)