「好きな人にはちゃんと気持ちを伝えんとあかんよ」

それが婆ちゃんの口癖やった
婆ちゃんは戦時中の政略結婚やった
婆ちゃんは爺ちゃんが好きやったらしけん爺ちゃんは他の人が好きやったらしい
婆ちゃんは爺ちゃんに思いを伝えられずそのまま爺ちゃんは遠いとこで帰らぬ人となった
それを、後悔しとるよやっさ
爺ちゃんは俺にそっくりらしくだからそれを知った翌日に髪を金に変えた
婆ちゃんが俺を見るたびに寂しそうな表情をするのが耐えられなかった

「婆ちゃん、」

「ん?」

「わん好きな人が出来た」

「ほぉ」

「スッゴい優しくて可憐な子」

「好きな人にはちゃんと気持ちを伝えんとあかんよ」

「おん」


爺ちゃんには恋人がいた
それでも婆ちゃんと結婚して父ちゃんを生んだ
爺ちゃんの恋人はどんな気持ちだったのだろう
婆ちゃんはどんな気持ちだったのだろう
平和な俺にはわからない
ただ、悲しかったんだろうな





「知念…!!」

「…凛」

サトウキビ畑の真ん中に作られた小屋の側で知念は黒糖をかじっていた
知念の家で作られた黒糖なため市販のサイズではなく手のひら位の大きさがある
それを前歯で削るようにしてチマチマと口にしていた

「どうかした?」

「やーに話があるんさぁ」

凛は知念の横に腰をかけた
知念はのぞき込むように凛をみた

「わんは…知念が好き」

知念がゆっくりと目を見開いた
それから左右に視線を泳がせてから俯くと黒糖をぎゅうっと握りしめた

「わん…も」

蚊のなくよいな声でそう呟くと感極まった平古場に思い切り抱きしめられた

「絶対、幸せにするさ…!!!」

大声でそう叫ばれて知念は平古場の胸で顔を真っ赤に染めた






「あ、」

繋いだ手を引かれて平古場は足を止めた

「でいごの花さぁ」

知念が指さしたのは鮮やかな赤い花

「うちのおばあちゃんが大好きなんやっし」

知念は愛おしそうに花びらを撫でた

「おばあちゃんの恋人戦争に行く前にくれた花やっと。その人は政略結婚させられておばあちゃんもおじいちゃんと結婚した。それでも2人は思い合い続けてて、でもその人は帰ってこなかったらしいさ。」

眉を下げてそう言った知念の頭を平古場はゆっくりと撫でた
「わん達は絶対、一緒に幸せになろう」

知念は平古場を振り返った

「うん」

そっと絡めた指に力を込めた
きっと、2人が共に幸せになる日もこの平和の中でなら遠い話ではないだろう







(細かい事は流して雰囲気で読んで下さい)