「千歳から他の女の匂いがすんねん」

そう呟いた白石の瞼は痛々しく真っ赤に腫れ上がっていた

「千歳に抱きしめて貰うのは嬉しい…でもそのたびに色んな女の匂いがすんねん」

俯き顔を左右に振りながら涙を流す白石の頭をそっと撫でてやる事しか俺にはできんかった

「うち…謙也んこと好きになればよかった」

そう呟き茶目っ気たっぷりな表情で笑った白石の頭をコンと小突いた

「それでも千歳が好きなんやろ」

「………うん」

そう頷いた白石の顔は寂しそうでもあったがどこか幸せそうでもありどうしよもなく胸が痛んだ








「なぁ千歳、なんで浮気すんねん」

そう持ち掛けたのは昼休みの屋上だった
本来は立ち入り禁止のこの場所には俺と千歳の2人しかいない

「白石…泣いてたで」

千歳は一瞬キョトンとした表情を見せたがクスクスと笑いだした

「そか、謙也の前では泣いたとね」

「な…何がおかしいねん」

そういえば千歳は笑うのを止めてこちらをみる
千歳は視力が弱いからかも知れないが凄く目力がありその目に見つめられのは苦手だった



「俺は白石ば泣かせたいとよ」

「…………は?」

謙也は千歳が何を言ったのか理解出来なかった
そんな謙也をよそに千歳は穏やかな表情で話しを続ける

「完璧なのは白石の美点とね。ばってん完璧ほど崩したいもんはなかとよ」

「………やから白石を泣かせたくて浮気するんか」

謙也がおそるおそる伺うようにそう言うと

「そうゆう事たい」

と、あっさり返されれ謙也は思わずコイツは馬鹿なんじゃないのか、と思ってしまった
好きな人は猫可愛がりして大切にしたい謙也にはこの好きな子イジメの様な感覚は理解し難いものだったのである

「完璧な白石が俺に乱されて完璧でなくなるなんてたまらんばい」

しごく興奮した様にそう言われ謙也は理解しようとするのを止めた
どうも相容れない領域らしい

「ばってん、そしたらちゃんと白石の事だけ可愛がってやるとよ」

愛するなどではなく可愛がる
千歳にとって白石はすでに愛の対象ではあり他の女子は白石を泣かせる為に可愛がっているのであり用が済めば必要ない
千歳の吐いた台詞は暗にそうゆう事であり謙也は千歳にヒドい嫌悪感を抱いた

「そないな事してるうちに俺が白石ん事奪ったるわ」重く低い声でそう呟き階段へと続く扉へ向かい始めた謙也をみて千歳はまたクスクスと笑った

「できるもんならやってみるとよ」

謙也はその台詞に応える事はなく、ただ力任せにドアを開閉し屋上を後にした
千歳はバタンと大きな音を立てて閉められた扉を見ながら白石が迎えにくる放課後までここで昼寝でもしようと思いゴロリとコンクリートに寝そべった







(なんか千歳がドSな悪い男…甘い千蔵も書きたいです)