私達が病院…晋助のお父さんが勤める病院についた頃には、もうお父さんは息を引き取っていた
泣き崩れるお母さんを晋助は優しく抱きしめた
晋助のお父さんはこの病院の医院長だった。晋助のお母さんは影ながら彼を今までずっと支えてきた
その高杉家の長男であるのが晋助
私は場違いな所に居るんだなと思って、晋助にばれない様に病室から出た
廊下のベンチに腰を下ろし、息をつくと側に集まっていた数人の医者達が声を潜めて話しているのが聞こえた
「医院長が亡くなられた今、後は誰が…」
「そんなの息子に決まって…」
「医者になるつもりはないらしいが…」
「そうはいっても一人息子だぞ?」
やっぱり…晋助はお父さんのこの病院を引き継がなきゃいけないのか…
きっと晋助のお母さんはそれを望んでる。晋助が保健医になるときも最後まで反対していた
そして晋助は、お母さんに泣きつかれて頼まれれば医者になる事を決めるだろう
「おい、」
「へ?」
いつの間に廊下に出て来ていたのか、晋助が声をかけてきた
それから何も言わず私の隣に座る
話をしていた医者達の姿もなかった
「…」
「…」
晋助は何も言わない。
私も何も言えなかった。
何と言葉をかけていいか分からなかった。慰めの言葉なんて、ただのお飾りにすぎない事はわかっていたから
静かな廊下にどこからかすすり泣く声が聞こえる
晋助は泣かない。強がってるだけで晋助は本当は少し弱いから泣かない。
たとえ私の前であっても晋助は泣かない。晋助が泣いてるのを、私は見たことない
「…」
だから私は晋助を抱きしめた
晋助がお母さんにした様に、優しく抱きしめた
抱 き し め る し か
(こんな時に私は)
(抱きしめるしかできないの)
2013.02.01 執筆
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