「なぁ、真奈美ー」


「嫌ですよ」


「まだ何も言ってないだろー?」



ホームルームが終わった後、先生に名指しされて即答で断った

嫌な予感がしたから


だって、いつものことなんだもの



「国語準備室来て?」
「嫌です」



ほら、やっぱり。

先生は事あるごとに私を準備室に呼ぶ

書類整理だったりとか、単にお茶飲み相手だったりとか


私は別に嫌いじゃないけれど、それをよく思わない生徒も数多くいるのを、私は知ってる



「なんでー?」

「なんでじゃありません。生憎、私は忙しいので。」



既に教室から出始めている生徒に紛れて私も教室から出ようとする

と、がしっと後ろから腕を掴まれた


思わず振り返ると、先生がいつになく真剣な顔で私を見ていた



「頼むから…な?」


「…っ」



思わず息をのむ

一瞬遅れて顔が熱くなるのを感じて、先生の腕を振り払う


「し、知りませんっ」


赤くなった顔を隠すようにしながら私は教室から逃げた

咄嗟に生徒会室に駆け込み、ドアを閉める


「…っ」


まだドキドキしていて、顔が熱い



先生はずるいと思う

いつもはおちゃらけてるくせに、たまにあんな顔するんだから


私ってギャップに弱いのかしら

かといって、あの先生の表情に負けてしまうのは私のプライドが傷つく





「…あ、真奈美」


「……………何の用ですか」



なんだかんだ言いつつ…結局私は国語準備室に来てしまった

いつもそうなのだ。次こそは、次こそはと思いながら、また呼ばれれば来てしまう


やっぱり私は先生を嫌いにはなれないんだろう



「はい、これ」


「…これっ」



先生が私に差し出したのは古びた本だった

表紙の色は褪せていて、埃を被ってはいるもののタイトルは読み取れた



「探してたんだろ?」


「はいっ」



国語の過去問で読んだ古文が載った本だった

図書室で探してはみたものの、調度私が探している一節が載ったものがなかったのだ



「でもなんで先生が知って…」


「あー、ほら」



私が疑問を投げかけると先生は照れたように笑った



「この間、探してるって話してたろ…?」



そういえば…九ちゃんに話した記憶も無くは無い

私すら忘れかけていた事を、先生は覚えててくれたんだ…



「ありがとうございますっ」



本当に嬉しくて笑ったら、先生も嬉しそうに笑った





その笑顔は好きで



(家まで送っていこうか?)

(遠慮しときます)





2012*03*06 執筆



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