平腹さんが蹴り開けた手術室は薄暗かった。トタンが窓に打ち付けられていて少しだけ明かりが漏れている。しかし血痕以外にはあまり荒らされた感じがなく棚には綺麗に薬品が並んでいる。その前に器具が並べられていて何に使用するのか全く見当がつかないものやペンチみたいな形のもの。そしていくつか形の違うメスのようなものがある。 その中から一番血濡れてなく鈍く光ってるものを私は拾い上げた。
「使い慣れない下手なもの持つな」
二人は他のところを捜索していたはずなのにいきなり田噛さんが後ろに立っていてメスを落としそうになる。
「すいませっ……」 「亡者は俺らがどうにかしてやる」
まあだるいから平腹に任せるけどな、といって部屋の奥に進む田噛さんに私はメスを置くとついて行った。
「おー名前―、田噛―、なんかなんもなくね?」
平腹さんが部屋の隅に座り込んでいる。なんだか不思議な空気を感じて私は振り返った。
「し、たい…?」
手術台の上が鈍く青色に光っている。近寄りたくはないが明らかに人型だった。 なんか縦まっすぐに腹切られてたぜ〜中めっちゃ見えてんの!と愉快そうに平腹さんがいうので血の気が引く。
「変だろ、」
血濡れた紙を親指と人差し指でつまみあげた田噛さんが呟く。
「なにがですか?」 「脳手術をしていたはずだ、腹なんて切る必要ねえよ」
平腹さんに隣から立ち上がってカルテを覗き込みにいくと死体が嫌でも目に入ってしまう。 さっきから鈍く光っていた青は切られた腹部から発光しているようだった。
「おなかのとこ、なんか、ありませんか…?」
田噛さんがちらり、と私に目を向けた。
「おい平腹調べてみろ」 「ちょっとは仕事しろよな田噛もさー」
といいながら平腹さんは腕まくりをするとその腹部にためらいもなく腕を突っ込んだ。 顔が完璧に引き攣るのを感じる。気持ち悪い。それこそメスとかいろいろあったんだからそういうので探ればいいのに。
「え!鍵!田噛!鍵あんだけど!」
赤黒くなった手で平腹さんが鍵を摘み上げる。
すっげえ、なんでわかったんだよ名前!と平腹さんが言った瞬間に手術室のドアがガタガタと揺れる。明らかに開けられそうな、開けようとしているような音。 そういえば平腹さんも入るときに蹴破ってたからもしかしたら立てつけが悪いのかもしれない。なんだか固い金属のようなものが扉にぶつかったような音がして私は思わず二人の軍服を掴んでしまっていた。
まぼろしをどこまで信じる
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