「ふーん名前っていうんだ」

「はい。ひ、らはらさんとたがみさん…」

そう!と大きな声で言って私の手を引き立たせてくれたのが平腹さん。
彼らは獄卒で実害のある亡者を取り締まることを仕事としているらしい。
よくわからないけれど、ここに迷い込んだ時点で分からないこととか理解できないことが多すぎて。
ただ分かるのは私を救ってくれたのは彼らだし強そうだ。…多分。
田噛さんはめんどくさい、だるい、とばかり言っているし表情からもそれが伝わってくる感じでよくわからないんだけれども。


「とりあえず行こうぜ?」

歩けるだろ?と言われはい!と言ってこの病室から出る。さきほど殺されかけたのが嘘みたいだ。出る前に一度振り返るとカーテンがふわり、と揺れて背筋が凍った。



「どうやって入ってきたんだ」

田噛さんの橙の目がこっちを見る。

「え、普通に入り口から入れましたけど…」
「えーまじで?!俺ら入れなくてめっちゃ困ったんだぜ?!」

平腹さんが振り返る。
彼の声はいちいち大きくてムードメーカーのようでだいぶ恐怖が薄れた。

「おい、」「気付いてるって」

横から突然現れた入院着の霊の頭部をスコップで叩く。パコン、といい音がした。
少し廊下を歩くと(ちょこちょことある病室には平腹さんが覗きに行ってくれて私たちは廊下で待っているだけで済んだ。本当にありがたい。)最奥には「手術室」とかかれた看板。


「ここは田噛も来いよ!」「あ?なんでだよ」

この階他になんもなかったしあるとしたらここだろー!階段も封鎖されてたしよー。まあ名前がアイテムとかいうならわかるけど?と言う平腹さん。
人の事はいえないけど完全にゲーム感覚だ。ちなみに平腹さんゲームとか漫画とか結構好きらしい。こないだやったホラーゲームの話で盛り上がったりした。こんなとこで盛り上がるなんてびっくりだけど。

俺なんか落ちてても見落とすかもしんないじゃん?!というそれでいいのか平腹さんと思われる台詞に納得したように頷いて「たしかにな」と田噛さんはいった。それでいいのか田噛さん。


よくドラマで見るストレッチャーが走るような大きな廊下と手術室の前に置かれた長いソファ。どこからかすすり泣く声がして私は田噛さんの制服のすそを握った。

バン、と大きな扉を平腹さんが蹴り開けた。









息吐く瞬き