何も考えずに入ってみたのはいいけれどドアなんて開くのだろうか。
普通に閉まって気がする、と思いながらドアを捻るといとも簡単にまわりドアが軋みながら開く。
「…おじゃまします、」

なぜこんなにも入りたいと思ったのか、この廃病院に。
そう考えると私は呼ばれていたのかもしれない。
この不思議な出会いと、彼に。

あれ、思ったよりも綺麗だ。
…というか綺麗すぎるのではないか。少し壁が黄ばんだり、緑がかった床が濁った色だったりはしているが今まだ使われているといわれてもおかしくない気がする。
それに、避難用の脱出口を示す緑の光が鈍く光っているのである。
廃墟マニアとかじゃないからよくわからないけれど他に誰かいるとか?廃病院と見せかけて昨日くらいに閉まったとか?
よくわからない考えがぐるぐると頭の中でまわる。
まあ、よくわからないなら確かめればいい、使われてるんじゃないかってくらい綺麗で明るくて怖くもないし。
窓口は扉が閉まっていて中を見ることが出来る状況ではなかった。
そのまま左に折れて長い廊下を歩く。処置室とかあるのはこっちだろうか。
小さめだが総合病院のようだし。
なんだか左目の筋肉がぴくぴくと痙攣して私はこめかみを軽く揉んだ。

その廊下の途中にあるドアノブを引っ張ってみたが回らない。
「あかない…か、」
これ全部のドアが閉まってたらどうしよう〜と思いながら逆側の壁にあるドアノブに触れる。


―――――――――――ぞわり。

背中がぶるり、と震えた。だめだ、ここは。
ガタン、と地響きのようなものが起きて電気が消えた。

「うそ、」

やばいこれはやばい、やばいやばいやばい、こんなとこ入るんじゃなかったどうしよう助けて。
顔をあげると清潔だったはずの白い、病院が赤く包まれていた。
綺麗な赤じゃない。そこらじゅうに手で血を塗りたくったような赤。
私は玄関口まで入った。さっき入ってきたドアも真っ赤になっていて気持ち悪いけれどためらいもせずドアノブをまわす。がちゃがちゃがちゃ、と鈍い音が鳴って。

「あ、あかなっ、い……」

もう無理。やだ。と思う一方冷静に考える私もいる。
こんなこと起きたのは初めてだけどホラー映画やゲームで出入り口に縋り付いて震えて現実逃避をするのは死亡フラグだ。どうにか、しなきゃ。最悪二階のベランダから出たって死にはしないだろうし。

深呼吸して立ち上がりさっききた道を歩く。
歩くと地面の血と泥がぐちゃり、と音を立てる、ああ、気持ち悪い。
窓口からナースコールを知らせるベルが大きくなったけれど私は耳を塞いで歩いた。

ああ、もう嫌だ。





囁く鼓動