大地くんと炒飯


大学に入ってから大学の近くにマンションを借りた。社会に出る前に自立した生活を送った方がいいという父親の考えで自宅から一時間かけて通っていた高校の近くにマンションを借り、高校のそれまた近くにある大学に通っている。

土曜午前中だけ入れている講義を受け終わって、大学から自宅までの道を一人歩く。
なんだかどんどんと暑くなっていくなあ。あっと言う間に夏にそう思いながらトレンチコートを片手に通り過ぎるのは私が通っていた県立烏野高校である。
第二体育館からはボールの跳ねる音。それにいったぞーとか掛け声。顔が緩んでしまってそれを隠すように私はアスファルトを睨みつけた。

途中でスーパーに寄って卵とベーコンに玉ねぎとレタスを籠に放り込んで、あとアイスに思わずきかれてカップのアイスを二つ買った。スーパーで買っても高いやつ。
ときどき食べたくなっちゃうのが悔しいんだよなあ、と思いつつも先日給料日きたばっかだし今日は彼も来るしと半ば無理矢理自分を納得させてレジに向かった。

お昼ご飯を終えてソファーに座り雑誌を捲っているとピンポーンとチャイムが鳴り顔をあげると同時にがちゃり、と扉が開いた。

「おかえりなさい、大地くん」

烏野高校バレー部の黒いジャージを着た大地くんはなんだか苦い顔しながら靴を脱いだ。
今日暑いねー。ジャージ黒だから余計熱こもりそうだよね。とかありきたりの会話をして私はあ、と雑誌を閉じた。

「大地くんなんか食べた?」
「スガと肉まん食った」

菅原くん。懐かしいな。会いたいな。
ふふふ、となんか笑ってしまう。

「じゃあ、お昼ご飯はいい?とりあえず炒飯あるけど」
「いる、」

大地くんがすごくしっかりした声で言うから私は思わず台所から向き返ってしまった。


「名前の炒飯、うまいからな」

ニカッと歯を見せて笑う大地くんに私は頭をかかえた。
私の方が一つ上だというのに翻弄されっぱなしだ。

今度はなんか私から大地くんをびっくりさせたいな。させてやる。
そう心に誓って私は彼の前に炒飯の大皿を置くのだった。