「おにいちゃんこんどはいつかえってくるの?」
「また来月の壁外調査後になってしまうかもしれないな」
「がんばってかえってきてね!わたしちゃんといいこでまってるから!!」


訓練兵を卒業してはや5年。そう聞くと軽く聞こえるが調査兵団に所属しているというと話は別だ。乗り越えてきた死線の数は多くそれなりの地位にのぼっていく。
それを人は「七光り」だとなんだの言ってきた。もちろん壁外調査時に後方へ回されることは多々ある。だけど逃げているわけでも自分からそう志願しているわけでもないというのに。



「エルヴィン!!」

ばたん、と大きな音を鳴らして開け放されるドア。ああ、こんな団長へ礼儀知らずなところを見られたらまた七光りだのなんだの言われてしまう。そんな私の心情を知らないであろう私の兄こと調査兵団団長のエルヴィン。

「どうした名前」「…また後方に配属したでしょ」

しぼりだすように出る小さな声。

「名前」

椅子の軋む音がしてエルヴィンはいつの間にか私の前に立っていてす、と同じ色素をした金の髪を浚った。

「後方だって大切だ。私は君を信用して後方の部隊を任せているのだよ」

わかるね?と諭すように覗きこまれる瞳は私のものよりも深いように思える蒼。私よりも遥かに深く、何かを考えている目。その目に見つめられるとやっぱり私は何も言えなくなりゆるく顎を引いて頷いた。やっぱり私は兄に反抗などできないのだ。

「名前、この間内地に行ったときに買ったチーズがあるんだ」
「でも、それ高いんじゃ」
「可愛い妹に食べさせてあげたい兄の気持ちを無下にするのかい?」

優しく微笑んで暖炉に金色の欠片を突き刺した棒を立てるエルヴィン。
火にてらてらと照らされとろりと蕩けるチーズに耳の下らへんがきゅう、と熱くなった。

「おい、し。」

口に入れただけで濃厚な旨味が広がる。こんなおいしいもの、食べたことがない。口の中といわず体が蕩けそうだ。思わず顔をほころばせてしまう。

「名前のそういう顔は何年経っても変わらないな」

そっと大きな手が頭上から降ってきてぽんぽん、と撫でられる。父親の手に撫でられた幼き日を思い出す。母の太陽のような金色の毛とは対象に闇に紛れるような漆黒の髪。髪の色こそは違うが成長したエルヴィンと姿形はほぼ同じで。

「エルヴィン、死なないでね」
「私は君の方が心配だよ。戦い方も無茶だしな」

無言で帰宅した彼は病弱な母親に当たり前だが大きな衝撃を与えた。残された子供たちが父親の跡を追うようになったのはなぜだったか。
机に沢山積んである戦術書。過去の壁外調査の報告書。見慣れた文字に大きく図解された次の壁外調査の戦略図。横目でそれを見て胸元の自由の翼をそっと握った。

「おにいちゃん。」



世界の谷底で







ひよちゃん…リクありがとう…
あの…書き直させてください…(震え声