貴族の愛人になるっていうのもなかなか大変だ。真っ赤なルージュを引いてコルセットを締める。暑苦しくて重たくて馬鹿みたいなコルセット。脱がされるのは一瞬だというのにね。
昔はコルセットもパニエも鋼鉄のボーンが入っていたという。重すぎでしょ。

「…馬鹿みたいね」

この暑いドレスも赤いルージュも巻かれた髪も。私は幼い頃と何も変わっていない。地下街でマッチを売っていた頃も貴族の愛人となっていた今も。ただお金が必要だっただけだ。
だけど今はそんな生き方も馬鹿みたいに覚えてきて私はせっかく締めたコルセットをほどいた。この方がずっと私らしくいられる。バックが大きく開いたお気に入りの黒のドレスを着て私は外へ出た。


「なんだか外が騒がしくない?」
久しぶりに四人で集まった執務室で内地で買った高級なワインを開ける。ハンジは飲みすぎて騒ぎはじめていてそのハンジが動き(主に巨人について話していた口だが)を止めそういうのだから笑ってしまう。その瞬間にミケはすん、と鼻を鳴らし「名前だ」と言った。
リヴァイは呆れたように私を見て背もたれに体重を載せたところで執務室のドアは音の鳴ることなくゆっくりと開いた。
「暗殺業でもはじめたのか名前」「リヴァイみたいに物騒じゃないもの、せめて夜這いといって」
にっこりと口に三日月の形を描いて笑う彼女は兵団内ではみることのない女らしさを放っている。しかしその赤い唇をすべて拭ってしまいたい欲にかられた。
リヴァイはグラスを奪ってワインに口を付ける彼女を露骨に嫌そうに見た。
「名前、どうして今日はここに?」
「別に」
あなたに会いたかったんじゃない?首に絡みつく腕からはもう離れられないようで私はそっと開いた背中をなぞった。


「エルヴィン、何考えてるの?」「考えてるのは君のほうだ」
ぐいと引き寄せられ唇を吸われる。絡み合うならはやく出てけとリヴァイにかけられたワインは白いシャツを真っ赤に汚してしまっていて、まるで出血しているようだった。
「ここの人はいいわ、どんなに辛くても大義名分のために死ねるもの」
私にはこの世界は虚無すぎる。
地下街から連れ出されたときはリヴァイと何も変わらなかった。
彼は人類最強として生きていて私もなにか欲しかったなんて言うのはわがままかしら。
「ねえ、私を見てよ」
もうどうでもいいから溺れさせて。








溺死したらしいけど彼女は何に溺れたのだろうね




林檎さまリクエストありがとうございました!
妖艶美女というのが難しくてどうにもなっていません…
また調査兵団とのことでしたがハンジとミケが空気です…