「失礼いたします。サフランライスに有機野菜、オマール海老と烏賊のマリネを乗せコンプレッセ 寒天パプリカでございます」

宝石のように彩られたきらきらと輝く食材の数々。見るからに美味しそうな前菜に気分が高揚する。食べなれたようにワインを飲むエルヴィンさんはまたお高そうなスーツを着ていて私は自分の着ているもの、というか自分自身がすごく陳腐なものに思えた。

「…よかったんですか。仕事帰りにこんな高そうなところ…」
「君と食べたかったんだ。…食べてみて」

震える手でフォークとナイフを持ち、小さく切り分けて口に入れる。ぱあ、と口の中が明るくなる感じ。とても美味しい。涙が出るんじゃないかと思うほど。

「おいしい…です。」
「君の口に合ってよかった。」

ほっとしたように笑うエルヴィンさんと出会ったのは一年前だった。会社の上司、といったら説明は簡単だが彼はその年にして重要な役職についていてどうして出会ったのだろうと思ってしまう。彼は仕事が出来、誠実で、しかし知識豊かで面白くとても素敵な大人の男性だった。今だってそう、会社帰りにデートしようなんていってこんな素敵なお店に連れてきてくれるんだから。

「失礼いたします、ハーブが香るパンタード胸肉 ランティーユサラダ添え
サリエット風味マデラワインソースです。」

給仕のお姉さんはすごい丁寧な手つきでお皿をエルヴィンさんの方へ置きそしてこちらへと振り返る。

「そしてこちらがオレガノ香る仔牛ロース肉 根セロリのムースリーヌとトランペット茸添えに生姜風味肉汁ソースでございます。」

ぺこり、と会釈すると穏やかに笑いかえしてくれるお姉さん。ああ、私もこんな大人の女性になれたらいいのに。肉を切り分けたわいのない話をしつつもそんなことを考えてしまう。
あんな、女性だったら、彼は抱いてくれるのだろうか。そんなことを考えて私は頭を振った。



「すごく美味しかったです!ワインも飲んだことがないくらい爽やかで濃厚で!!!」

ほわほわと頬が温かい。夜景が見える公園で二人で手を繋いでふらふらと歩く。その当てのない散歩は学生時代のようでひどく楽しかった。掴まれた手が温くて気持ちいい。

「名前」
「ん、」

急に立ち止まったエルヴィンさんと肩がぶつかり、そしてゆっくりと唇が触れた。
普段の触れるだけのキスではなく濡れたものが唇に触れて舌が入ってくる。熱い息が漏れて目を開けていられない。
ぎゅ、とスーツを掴むとエルヴィンさんははっとしたかのように唇を離した。
離された唇が欲しくてしかし欲するようにあげた顔がなんだかはしたなく思えて慌てて私は顔を下げた。




「座って、」

シンプルな部屋に通され私はどきどきとしてベッドに座った。キスされるか。押し倒されるか。そう思っていたら隣に座り触れないエルヴィンさんに少しだけ不安になる。
初めての深い唇に浮かれたのは自分だけだったのか初めての彼の部屋に期待しているのは私だけなのか。はしたない、けれど本当に私は彼が好きで、彼から与えられるものはすべてすべて欲しかった。

「…私はそう若くないんだ。」「へ」

笑わないでくれ、そうエルヴィンさんは前置きして私の手を握り話しはじめた。

「君はまだ若い。…私のようなおっさんにはもったいない。」

君をずっと抱きたかった。結婚するなら君のような子がいいとも思っていた。ただ私は君を縛り付けてはいけないと思ってね。

なんだか切なそうにそう話す彼に私は思い切り抱き付いた。

「わたっ…私はエルヴィンさんが好きです…エルヴィンさんが、いいんです。」

触れた唇はさっきと同じ、深いそして熱い唇だった。







「やぁっ…! だ、め…っ! ゃあ、っ! ひああッ」

望んでた手は生易しいものではなく激しく私を攻め立てた。気持ちよくてなにも考えられなくなりそう。シーツを握っていた手はエルヴィンさんの手に掬い取られて絡めるかのように繋がれた。
私を弄っていた手を彼は性的な仕草で舐めて自分のベルトを外す。カチャカチャ、とその金属音に体は震え少しだけ竦んだ。

「名前、大丈夫か」
「…はい。」

ぎゅう、と彼の首を引き寄せ抱きしめる。まるで呼吸が詰まってしまいそうな衝動だった。

「あっ…、あ、っは…ぁう…っ!」

唇を噛んで漏れる声を抑えようとすると唇が触れる。唇を開き彼の舌を迎え入れるとその隙間から自分のものではないような甘い声が漏れてまた羞恥心で顔が熱くなった。






楽園に託した



壱さまリクありがとうございました!!!エルヴィンさんと部下が年齢差を気にして…というのはとてもおいしかったのですがあまり出てないですね…!あわわ
貴重な萌補充とまでいっていただけて本当に嬉しいですありがとうございました!!!