6.


夏休み。日焼けが気になるとこだけど着回しとかが一番シンプルで考えやすいし可愛い一枚買えばいいんだし(こう考えるところは高校生にしたらちょっと怠惰なのかもしれない)四季の中で一番楽しいシーズンかもしれない。
今日も友達と約束して都心の方に来てしまったりして。貧乏学生たる所以、お互いの地元から交通費が安い行き方を使おうと現地集合になるのはもうお約束だ。
私は待ち合わせよりもはやく行って買い物もしてしまおうと思ってたのだが意外とはやく済んでしまって駅で手持無沙汰になる私。いや手だけはカラフルなショッピングバックのせいで空いていないけれども。
暑いしどこかカフェにでも入ろうかとも思うんだけど値段がその気持ちを萎えさせる。
友達と一緒に入るのには躊躇しないんだけれど一人で入るにはコーヒーで300円とかそんな値段は払いたくないなあと思ってしまうのだ。貧乏性かもしれないけれど。
しかしやっぱり都心。わけわからない美容院の勧誘やネイルサロンの勧誘、それにナンパ。ああ怖いなあって思ってしまう。それとも自分が都会慣れしていないからそういうのにしつこく誘われるだけかなあ。げんなりしていると後ろから肩を叩かれた。もう、またか。
結構です。そう断ってしまおう、決意して後ろを向くとすごく身長の高い男の人。見上げると、

「あ、エルヴィンさん」「奇遇だね」

すぐそこの支店まで来る用事があってね、これから帰るとこなんだ。君は?エルヴィンさんは頭にじんわりと汗をかいていて金髪の髪がその水滴によりまたきらきらとしている。なんだか見ていてもっと暑くなってきた。

「私は友達との約束はやく着きすぎちゃって。」

ほう、と顎に手を当てるエルヴィンさん。そういえば昼間に会うことなんてめったになくて(あるとしてもまあコンビニだけで)スーツの上衣を抱えてシャツ一枚の彼はなんだか新鮮だった。何分くらい待つんだい?そう聞かれて私は遊びに行くとき専用のとっておきのピンクゴールドの時計を見た。あと40分くらいです。割とあるな、と言われ何も言われていないが示し合わせたように歩き出す。道でじっとしてるより歩いた方が建物の入り口のクーラーとかを感じて涼しい。ちょっと話そうか、私も昼食を摂っていなくてね。そう言われ二人で入るのは先ほど一人で入るのに断念したカフェで。カフェオレでいいかい、お金を出して自分で買おうとしたその瞬間に聞かれ条件反射で頷くと一緒に買われてしまった。代金を払おうとしても笑顔で断られてしまう。そういうスマートに払ってくれるとこいいよね、なんていってクラスの友達は年上(そうはいっても大学生とかだけど)を望んでいるがエルヴィンさんはふとしたことから話すことになっただけでただのコンビニのお客さんであって。だからこそこんなに二人で話すことに馴染んでいる自分が不思議で不思議で仕方なかった。だけど彼は大人であるというのに話は合うし(どのジャンルにしても彼が物知りなのが理由の一つだとは思うが)いつも楽しそうに笑ってくれてなんだか嬉しくなってしまう。これってなんかおかしいのだろうか。

「ごめんなさい、私の待ち合わせまで付き合わせてしまって。」
「いいんだ、こちらこそ楽しい昼食時を過ごさせてもらったからね」

エルヴィンさんはもう少しここで仕事するといって私は一人カフェから出た。
待ち合わせしていた友達はもうすでに来ていて「名前なんか今日いつもより女っぽくない?メイク変えた?」と言われる。別に変えたりしていないし汗でどろどろなんだけどな。




はあ、とため息をつきながら仕事をするという名目上開いたパソコンをすぐに閉じる。
この間敬語をやめるように言ったというのにやはり今日話していたら敬語だった。
そんなところも昔と変わっていない、と胸が縮むように苦しく愛おしくなって。
だけれども彼女は私のことを覚えていない。辛いものだな、そう自嘲気味に笑って私は店を出た。