4.
「ありがとうございましたー」 バイトにいくまでは憂鬱だけど始まってしまえば機械的に流れていく。あと三分でバイトが終わるという21時57分。もうほとんど客はいなくなっていて立ち読みしているのも2、3人しかいない。揚げ物を足しとこうかなあ、そう考えレジから退こうとしたときに台の上に置かれるビール。
「いらっしゃ、…あ。」
どっかの雑誌で見たことがあるようなアルマーニの濃いグレーのスーツ。重感のあるそれを着こなす筋肉質そうな体型。
「…エルヴィン、さん」「よく覚えててくれたね」
仕事帰りなのだろう金色の髪を七三に分けぴっちりと留めた彼。
「148円です」「はい。」
ぴったりお代をいただいてビニールに入れた缶ビールを渡す。この間学校の前で会ったのは一か月前でそれからはあまり会わなかったからストーカーという線は消えたように思い安心していた。ときどきコンビニで会って少しだけ世間話をするようにはなった。
「今日も10時上がりだろう、送っていこうか」「は。」
そう安心してたのに。高校生で送ろう、なんていうのは下心の表れみたいなもので社会人がそんなことをスマートにできるなんてことは知らない。だからこそ私はどきり、としてしまった。そんな私の顔が固まったのが分かったのだろうエルヴィンさんは少し慌てて言った。
「いや他意はないが、最近物騒なことが多いからな…」
慌てる彼を見て少しあった疑惑みたいなものが晴れた。大人とはこんなに簡単に送るとかいうのか、と思ってしまう。 「あの、大丈夫です今日は自転車なので」
そういうと安心したように彼は頷いた。私のバイト時間もそこで終了となり私はエルヴィンさんに挨拶してバックルームに入っていった。
「兵長聞いてます?最近多いらしいですよ痴漢!」 帰りがけにペトラがリヴァイの机にコーヒーを置きながら言う。コーヒーを置くためにかがんだ瞬間金色の髪がさらり、と揺れた。 確かに痴漢の話は多いし、昨日名前に送ろうか申し出たのにも本当に他意はなかった。 ただ彼女に襲われてほしくなんてないという理由は確かではあったが。 「ペトラ、お前は痴漢に襲われるほどヤワじゃねえだろ」 真顔でそう返すリヴァイ。私はペトラに同情した。リヴァイも彼女が女だということくらいは分かっているのだろうから送るくらいしてやればいいのに。
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