2.

「おはようございまーす。」

やる気のない挨拶でコンビニの店内を制服で駆け抜ける。バックルームに入ってロッカーに入っているスニーカーとジーンズを掴んだ。飲み物をしまう大きな冷蔵庫(その名もウォークという)に入った。

「あ〜涼しい〜」

真夏はこれに限る。制服のスカートを脱いでジーンズに履き替えローファーを昔使っていた古い黒のシンプルなスニーカーに変える。携帯をひらくと友達から雑談のメッセージ。既読をつけてしまったが他の友人が対応しているから問題ないだろう。『ごめーんバイトいってくるー』それだけ打って携帯を閉じると私は髪をひとつにまとめた。色素の薄い髪は生まれつきで別に染めたことはない。まあ学校も厳しくはないしバイトだってコンビニだし困ったことなんてないんだけれど。

「おはようございます」

レジに挨拶しつつ入って手を洗い消毒液をつける。なんだかバイトをはじめてから潔癖症になった気がする。お釣りを渡すときとか手が触れ合うごとに備え付けの消毒液を付けすぎてバイトのときだけ手ががさがさだ。
(潔癖って……あのひとじゃないんだから)
ふと思い浮かんだ言葉を自身で打ち消す。私潔癖症の友達とかいないし。
金曜のレジは意外と大変だ。明日休みだからってスーツ姿のおっさんたちがビールを買い込むから。缶ってちょっと倒したりすると音なるし炭酸だし嫌なんだよなあ。とげんなりしてしまう。値段的には高いしお店としてはいいんだろうけど。

機械的にカゴを受け取ってお弁当をあたためるか聞いて箸が何膳いるか聞いて袋に詰めて代金受け取る。そんな流れ作業なのに声はかすれるし疲れてしまった。

「いらっしゃいませ〜」

おまたせいたしました、そういってカゴを受け取ると中にはレジで通してから横の機械で入れてもらう式のコーヒーの紙コップと塩。このひとは塩をいれるつもりなのだろうか。それとも塩は奥さんから頼まれたものとかでコーヒーだけ飲んで帰るのかな。そう考えるとお客さんが声をかけてきた。
「コーヒーに塩って隠し味として合うと思うかい?」
やっぱり入れるのかよ!顔をあげると綺麗な金髪に整った顔。うわあ、いけめん。にっこりと微笑む顔には赤みが差していて、日本酒とか焼酎のような強い臭いとは違うけれど酒臭い。酔っているのかな、とも思いつつ私は(普段はにこりと笑って曖昧に済ますのに)返答をしていた。
「コーヒーだったら、シナモンとかいかがですか?」
「シナモン…か、ありがとうじゃあそれもいただこう。」
人が並んでいなかったのをいいことに彼は調味料の棚からシナモンを取ってきた。(あ、足取りはしっかりしている)
「はい、では431円になります。ありがとうございました〜」
話をすると挨拶に力がこもる。かっこいいのにコーヒーに隠し味を入れたがる不思議なおじさんはまた優しく笑って去って行った。
(あれ、そういえばなんでコーヒーにシナモンが合うって知ってるんだっけ…)
私は苦いのは得意ではないしコーヒーなんて飲まないのに。
テレビとかで見たのかな、そう私は気にも留めなかった。
ありきたりな生活のひとつのレジでのやりとりが私をガラリと変えるとは知らずに。