「やだ、帰りたくない。」

こういう言葉って男なら一度は言われたい台詞だと思ってた。けど、これがきかないのが冷徹そうに振る舞う前の世界では調査兵団団長、エルヴィン・スミスには通じなかったらしい。
駄目だ、帰りなさい、そう真面目にいって私の首にマフラーをかける彼の顔が憎い。

「私、別に子供じゃないし」

「社会的には子供だろう、」

そうだけれども!と逆上したくなった、し私がただの17歳だったらそうしていたかもしれない。
けれど最近思い出したといえ、私は前世(というのかはまだわからないが、いつかハンジが解明してくれるだろう)の記憶だって持ち合わせているし。
でもどんなにむくれても怒っても甘えても絶対彼は折れないのはわかっていた。

「もういい帰るから!!!!!!!エルヴィンのばか!!!!!!!」

マフラーを丁寧に巻いていたエルヴィンの手を振り払って私はガタン、とドアを開けると飛び出した。

「待て!」
「待たない!!!」
「止まれ名前」
「ぜ〜〜〜ったいとまらない!!!」

前世だったら。巨人と戦うために訓練を欠かしていなかったあの時だったらエルヴィンと走っても互角に戦えただろう。しかし今はしがない女子高生の身。
マンションの下にある公園で腕を掴まれてすぐ捕まってしまう。喉が痛くなる。普段運動してないこの体が憎い。

「離してよ、」
「すぐ離すよ、…俺の話を聞いてくれ」

エルヴィンが私の右腕を掴んで、真剣な顔でこっちを見る。サファイアの瞳に見据えられて私はしぶしぶと頷いた。


「本当は俺も名前ともう離れたくなんてないと思っているんだ。」

自信がないんだよ、前に先に手を放してしまったのは私だから。自嘲ぎみに笑うエルヴィンの口の端。

「そんなことっ…「心配しなくてもいい、と君が言うのは分かっているよ」

ぎゅ、と強く手が握られる。

「君を閉じ込めて俺の元に置いてもうどこにも行けないように肉体的にも精神的にもがんじがらめにしておきたい、とまで思ってしまうんだ。君を手元に置きすぎると欲が出てしまう。…だからけじめをちゃんとつけさせてくれ。」

子供と言ったのは言い訳だよ、悪かったね。なんていうエルヴィンに目頭が熱くなってしまって私は彼の腹部に抱き付いた。本当は引き寄せて頭を抱いて髪を撫でてあげたいけれど届かないから。

「ごめん、すきですエルヴィン団長。」

「私も愛しているよ、名前」

エルヴィンもちょっと泣いてるんじゃないかな、と思った。
顔を見るような野暮な真似はしないけれど。
なにが解決したのかよくわからなくなってしまったけどとても幸福な気分になってきっとそれは彼も同じで。早く昔のように二人で寝て起きる生活ができるようになったらいいなと思った。

あとね、エルヴィン。わたしの心も体も、もうすべて貴方でいっぱいなんだよ。
がんじがらめに、なっちゃってるんだよ。

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