20.

「お疲れ様でした、お先に失礼します!」

バイトが終わり、制服のスカートとローファーに履き替えてバックルームを出る。雑貨のコーナーに立っている長身のグレーのロングコートをくい、と親指と人差し指でひっぱると振り向いて笑う彼。

「おつかれ、名前」
「ありがとうございます。」

外灯にぼんやりと照らされた公園。
エルヴィンさんの差し出すコーヒーを受け取ってプルタブを開けようとすると最近不摂生にしているからか弱くなった爪じゃ開かない。察したようにエルヴィンさんは手を差し伸べて缶を開ける特有の音を鳴らす。はい、と缶を渡されると途端に気恥ずかしく顔が熱くなった。
いつもバイトの帰りは彼が迎えに来てくれて公園のブランコに腰かけたりしながらこうやってなんか飲んだりしながらぶらぶら話して。それで。

「名前。」「…っ」

近づいてくる唇に目を瞑るのだった。
もう何度もこういうことしているはずなのに体はいつもカチンコチンになってしまってエルヴィンさんはそれを笑いながら優しく背中を撫でてくれる。

「わ、?!」

少し前かがみになっていたブランコが軋んで鈍い音を立て揺れる。阿呆みたいな声を上げた私は地面へと投げ出された。







名前を呼ばれた気がして私は目を開けた。
「名前、名前!」と私の名前を呼んでいた貴方がほっとしたような顔をして笑う。
貴方にこうやって抱かれて息をやめたときにもこうして目を開けることが出来たらよかったのに。そっと頬を撫でて「エルヴィン、」と呟くと彼ははっ、と目を瞬かせてから端に涙を溜め笑った。それが一番見たい顔だった。

「ごめん、待たせましたね」
「いいや、全然待っていないよ、」

貴方はいつものように甘えるようにそっと指を絡めて御伽噺の王子様や騎士のように甲にそっと口づけて目を伏せた。


End.