18.

どうしたらいいのかわからなかった。
あのときは漏らしてしまった言葉のせいで勢いで告白してしまったからもう一度、ちゃんと気持ちだけを伝えたくてだからここに来た。
返事なんてすでに断られてる以上分かりきってるし聞きたくなんてない。だから逃げるように走り去ってバイトも辞めて、高校はばれているからしょうがないけどできる限りの縁を切って二度と会わないようにしようと思っていた。
だけど彼に腕を掴まれて困惑した。持っていた鞄がエルヴィンさんの足にぶつかって「あ、」と声が漏れる。今日はテストのために結構な数の教科書を持って帰っていたからきっと痛かっただろうにぶつかった瞬間彼はけらけらと笑い始めた。
ただでさえ困惑していたというのに私の目はきっと点になっていたと思う。
けらけら笑ったエルヴィンさんは私と目を合わせるとぽりぽりとこめかみを掻いて私を抱き寄せた。ふわり、と抱きしめられて当たり前のような温かみが私を包んだ。
どうして、と呟くとはぁ、とエルヴィンさんはため息を吐いた。
だめだ、だめ。期待なんてしちゃだめ。そう思っているのに心臓が高鳴ってどきどきどきってうるさい。

「名前」
「…はい、」
「すまない、俺はやはり君を諦められなかったようだ、」

君は、名前はもっと同い年の少年とかと付き合った方が幸せになれると思っていた。だけどやっぱり君が好きだ。すまない。そう謝られて私は何度も聞き間違いではないかと目をぱちぱちとさせて。足が震えた。
なんでとかどうしてとか口ごもって声にならない。今私、とても焦ってる。
ただエルヴィンさんの熱はまだ私を包み込んでいるのが真実でその熱に浮かされるようにまぶたから涙がぽろりと落ちた。
触れていた体が離れてエルヴィンさんが私の手を引き駅とは反対方面に歩きだす。
目元の熱を拭って私は手を引かれるまま彼についていった。



「兵長、見ました?エルヴィン団長と名前さん、」
「立ち止るんじゃねぇペトラ」

オフィスから駅へと向かう会社員の流れに軽く逆らい振り向きながら歩くペトラの頭をぐい、と前を向かせてふらついた彼女の腕を掴む。
わ、ごめんなさい兵長!と頭を下げるペトラを忙しない女だと思いながら駅まで向かう。
ずっと惹かれあっていたあいつらが今世こそは全うに幸せになってほしい。そうしないとあいつの調子もあがらないからな。

「兵長、何笑ってるんですか?」
「…いや、」

名前たち、幸せになってほしいですね。言葉とは裏腹に切なそうな顔をするペトラに俺は深く頷いた。