1.

死ぬほど苦しい思いをさせたであろう女性がいた。いやその前に死んでしまっているのだが。

「いいんです。私が貴方を愛していて、貴方が私を愛していることはお互いだけが知っていれば」

愛らしく笑う幼なめの笑顔と揺れるミルクティブラウンの髪。その綺麗な髪をベッドに散らして抱きしめる瞬間が一番幸せだった。そんな二人の時間が政略結婚という形で破られても彼女は隣にいてくれていた。

「私、こっちの書類片しときますから。寝てください、ね?」

そんな愛しい彼女を無理矢理ベッドに連れこんで本末転倒となったのはいつだったのだろう。




ハァ、とため息をつくとリヴァイがギロリとこっちをみた。
「息をするのはテメェの勝手だがその陰気臭ぇのどうにかしろ。」
もっともすぎて言い返すことが出来ない。前世(もっとも4人が共通したパラレルワールドの記憶をもつといったらパラレルワールドかもしれないが)で地下街からリヴァイを連れ出したときよりはるかに簡単に彼に会うことが出来た。けれど。

「もし生まれ変わっても絶対会える気がするんです。そのときは。」

会いたい、と思ってやまない彼女にだけ会えない。幾度となくついた溜息は枯れることがない。書類を出しにきたハンジがやれやれと肩をすくめるのがみえた。

「そのときは巨人がいない世界がいいな。」

「………君の願いは叶ったようだよ。」
息で揺れたコーヒーは彼女の隠し味の風味がない。なんだかひどく物足りなかった。



「名前を探すのはもうやめたらどうだ。」

仕事帰りふらりとミケと2人でふらりと立ち寄ったバーでアースクェークを流し込む。
名前の匂いはこの世で一切感じない。もしかしたら彼女は転生なんてしてないのかもしれない。そうミケは続けた。

「お見合いの話も出ていただろう、エルヴィン。そろそろいい年なんじゃないか。」
「ミケ、私はね、」

グラスを置いてアレキサンダーを頼む。彼女の好んでいたチョコレートに似た甘い味わいに目を細めた。

「もう彼女以外と添い遂げるつもりなんてないんだよ」

呆れられようとこの人生は彼女のために。
ミケの頼んだ新しいグラスの透き通るような琥珀色はまるで彼女が私を見つめているようだった。