17.

一日ぶりの学校は何も変化がなくてむしろ昨日休んでいたことを忘れるくらいだった。
カーディガンの上に椅子に掛けていたブレザーを羽織って机に入った教科書を鞄に移して席を立つ。ばいばい、と周りの子に挨拶すると私は学校を出て家とは反対方向のバスに飛び乗った。

制服で歩くには少し気後れしてしまう都内のオフィス街。
退社時刻を過ぎたその街は駅へ向かうスーツを着た大人たちで溢れている。
彼は毎日こんな場所に通っていたのか。なんだかまた世界の違いを感じてしまって寒さではなく鼻がツーンと痛んだ。
目的は決まっているから早足に歩く。あっ、て声がした方を見ると高く結い上げた茶色い髪を揺らしてぶんぶんと手を振るハンジさん。

「ハンジさん、こんばんは今お帰りですか?」
「やあ!こんなところで会うなんて珍しいね!」

スーツをしっかりと着込んだハンジさんは何かを確認したかのように大きく頷くと私の肩をぽん、と叩いて手を振ると去っていった。なんだかばれているような気がしてとても恥ずかしい。私は近くのカフェで温かいコーヒーを買って両手で包み込んだ。
時折吹く強い風に身震いしながらもそのまま待っていると出てきた。
目の前の高いビルから夕陽で輝く金髪と高い身長に見慣れたスーツ。

「エルヴィンさん、」
「…名前」

目を細めて一瞬切なげな表情を見せた彼は私を振ったことでも思い出しているのだろうか。
私は唇を噛みしめて彼の前に立った。

「この間は、せっかく送ってもらったのに何もお礼いえずにすみませんでした。」
頭を下げるとエルヴィンさんに上げるように言われ私は前を見つめた。
やっぱりがくがくと膝が笑う。だけど、うざいかもしれないしつこいかもしれないけれどこれだけは言いたかった。



「私は、エルヴィンさんのことやっぱりやっぱり好きなんです。ずっと貴方に会いたいと思ってた気がするんです。」
「私は団長が好きですよ。…なにかあってもまた会えたらいいと思っています」


ごめんなさい、と走り去ろうとした彼女の腕を掴むと鞄がぶつかった。
中身がたくさん入っているのだろう情けないことになかなか痛かった。そんな衝撃に笑ってしまってあっけにとられて力の抜けた名前を抱きしめる。
頬が冷たい。いつから待たせてしまったのだろう。以前も感じた気がするがなにも変わってないように見せかけて彼女の腕や足が細くて筋肉がないようだ。昔の彼女ならこのまま私を振り切ることもできただろうなと苦笑する。
困惑した彼女は頬をひきつらせてとても中途半端で私の顔を見あげていた。