15.

起きなさい、と叩かれるドア。行きたくない、と言うと昨日警察から電話を受けたらしくいつもより気を遣った世話の焼き方をしてくる母親は察したように「明日は出席するのよ、」と声をかけるだけで出て行った。

昨日車で送ってもらってからすぐにベッドに駆け込み寝たせいで制服のスカートはぐしゃぐしゃになっていた。
むくり、と起き上がると頭が重い。ベッドの下の引き出しからグレーのスウェットを取り出して着替えると私はまた温かい布団の中に潜った。
ベッドに埋もれていたスマホを持って左から右にスライドし、友人に今日休む、と連絡する。
事情を知らないであろう友人からはお大事にねーと返事が返ってきた。
赤くなって痛い目尻をこすりながら私はまたベッドへと潜った。






「なんでそんな辛気臭ぇ顔してる」

仕事帰りのバーでジンバックを一気に煽ったミケがほんのりと顔を赤くしていった。
不定期に開かれる仕事帰りの飲み会だったが、あぁ今日は私のために開かれたのだ、と思う。

「名前を振ったんだろ」
「何故知っている」
「クソメガネが話してた」

全くあいつは、と頭を抱える。なんだか随分と酔っているような気がした。
そんな辛気臭ぇ顔するくらいならどうしてそんなことした。
そうリヴァイは目でいいながら肘をついてタコとアボカドのピンチョスをつまんでいる。

「名前はまだ記憶を取り戻していないんだ。」

まだ、と言ってから不思議に思った。彼女はもう思い出さないのかもしれない。もう?彼女は彼女ではなかったのかもしれない。なんてぐるぐる考えてしまって。
名前は私がこんな女々しいことを考えていると知ったら笑うだろうか。

「思い出さないなら、出せないなら、もっと違う男のほうが幸せにできるはずだ」

それこそエレンのような年の近い男が。それを想像して無意識に拳を強く握りしめるとそんなことをする自分の未練がましさに腹が立って赤く光る液体をぐっと煽った。





「エレンくん、」

お見舞いに来てくれたわよー!なんて母親が呼ぶから痛い目を擦りつつ起き上がった。
制服の白いシャツを少しだけ崩して緩めたネクタイ。いつものエレンくんが何か不思議に見えた。

「なにがあったんですか」

エレンくんは私のベッドの隅に座ってそっと目尻を撫でた。歩いて下校したためだろう外気でひんやりとした指が気持ちいい。なにも考えていなかったはずなのにまたぽろりぽろりと涙が零れ落ちる。おろおろとし始めたエレンくんになんでもないよ、とは言えなかった。